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2007年5月 8日 (火)

映画『秒速5センチメートル』

映画『秒速5センチメートル』を見に、広島・鷹野橋のサロンシネマへ行ってきました。

 見ましたのは13:35からの回ですが10~20人ぐらいいたかな。『ヱヴァンゲリオン』や北野武監督のハチャメチャな次回作などの予告に続き、 タイトルが映写されよいよ開始。

 以下はネタバレというか自分の読解ですので、他の方の印象や作者の意図とずれているかもしれません。


 第一話『桜花抄』は、最初は手紙のやり取りというナレーションと日常生活的な映像という配置に これまでとの作風の違いがすぐには感じられずちょっと戸惑いましたが、 主人公の少年・タカキの日常の積み重ねや今も尾を引いている過去の淡く苦い思い出という下地が、 その後のアカリとの約束までの物理的にも時間的にも精神的にも長い旅路の重みを高めたかな。 抗いようもない事に蝕まれていく心とも。
 約束よりも果てしなく遅れたにも拘らず彼女が約束の駅にいた事がこのエピソードに幸福感を与えました。 けれどもその数日後には今日背を伸ばして越える事が出来たものよりも遥かに大きな壁、 それこそ思春期の少年にはそう易々と物理的にも時間的にも越えられないものが立ちはだかる訳ですが。

 第二話『コスモナウト』は、タカキが鹿児島・種子島に転校してから。
 こちらではサーフィンで波に乗れることを目標とする花苗がそこでのヒロイン。 そうして目標を節目にタカキに告白しようと思うのだけれども、 タカキが優しく接してくれるがその見ているものは違う何かだと悟ってます。 花苗との間には心のすれ違いが生じたという事なのですが…… その頃のタカキ自身はあて先のないメールを打ち続けていた。

 そして第三話『秒速5センチメートル』は、 誰もが大人となりそれこそ物理的にも時間的にも超えるだけの力を手に出来る、 そんな力を手にしている筈なのに、アカリではなく別の女性と付き合っていたが、 その間でも「1000回メールをしたのに、距離は1センチしか縮まらなかったようにしか思えない」 となじられるように身近にある人との心の距離でさえ越える事が出来なかった。
 そうではなく越えようとしていなかった。
 日常の忙しさに没頭して過去の思いを失っている事に気付き、 そして思い出の踏み切り前で彼女の幻影を見失った瞬間に決定的な過去の終わりを迎える……。


 ラストシーンが取り返しのつかないぐらい決定的な終わりであるにも拘らず、 過去の時間的な物理(距離)的な、そして精神的な断絶感と比べて悲観的な雰囲気がないのは、 タカキ自身が見失ったものを思い出す事が出来た事と、その過去を振り切り、 そしてその過去に乗り越えようとしてきたように 「自ら」をやり直せるだけの未来が続いているという希望を示唆しているからでしょう。

 過去は今よりも大切かもしれないが過ぎ去った思い出で決して取り戻せない。
 本作ではフォトリアリズムのような極限の写実で映像(アニメ!)を描かれているのですけど、 特に第1話での旅路の実写的な映像美は、 それがリアルであればあるほど第3話における今と同じ価値を与えていると感じました(均等に描く必要性とも)。
 山崎まさよしさんの“One more time, One more chance”に乗せた過去の思い出なんかは、 社会人となって一端見失った「思い出」が色あせずより一層の価値に至らしめている。 ただしそれは気付いた瞬間にだけ輝いたもの。

 過去の2作はSF的要素を絡めて、 そこにある二人だけのセカイの歩みが外の世界の歩みに引き摺られつつも、 その流れとは別の二人だけのものとして描かれていたのですが(子供の抱く「何でも出来る万能さ」のイメージ)、 この『秒速5センチメートル』ではその対極として、 日常の社会を舞台にまだ弱い二人のセカイでは外の世界には抗え得ないという挫折を示した上で それでも未来に続く事が出来るというのを描きたかったんじゃないかなぁと思う。

 ……違ってたら怒られそうですが(汗)。

 山崎まさよしさんのあの曲は実は今の今までその題名すら知らなかったのですが、 時々なにかで耳にするたびにその歌い方も相まってなんともいえない切なさを覚えていました。 本作では第1話でのBGMに第3話での過去の思い出にとその感傷をより強く感じましたね。

 過去2作ではそれこそ無尽蔵の何かを感じたものですが、 この『秒速5センチメートル』は見た後の帰りに思いつめた最初のものはというと世の中の狭さなのかなぁ。 自らにおける閉塞感と重なる部分もありましたから(社会人における閉塞感?)。
 読み解いて見てやっとその先の希望のようなものを見出したという……。

(5/8 1:00)



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