文系アクションと黒髪メイドさん 電撃文庫『死想図書館のリヴル・ブランシェ』
※今年読み始めた新シリーズや作家さんは例年に比べて多く、尚且つ面白いという作品ばかりでしたが、
その中でも特に目を惹いた作品の一つが電撃文庫『死想図書館のリヴル・ブランシェ』(折口良乃さん)でした。
この作品の大体のあらすじはこんなものです。
この「死想図書館」には焚書・禁書により失われた古書・希少本、架空の本、失われた原書の本、 口伝や石版を本に編纂したものが収められているのですけど……、 古代メソポタミアの冥府の女王・エレシュキガル(どう見ても幼女)の命により、 第1巻ではかの有名な架空の魔道書『邪神秘法書(ネクロノミコン)』を、 第2巻では臨済宗の祖・栄西が著した『喫茶養生記』(ウィキペディア)を、 それら図書館から逃げ出した書物をイツキとリヴルは捕えて回収してます。
なお、最新の第3巻では『不思議の国のアリス』と対峙してるんですが、こちらはエレシュキガルの命令とかではなく……。
『死想図書館のリヴル・ブランシェ』の魅力は、やはり登場人物でしょう。 しかしここでそれを全て挙げるとなるとどうしてもネタバレになるので、 簡単な紹介に留めます。
さてそのイツキくんとリヴルの活躍ですが、大まかなあらすじと表面的な感想はこんな感じデス。
第1巻ではイツキは「筆記官」初心者というかチカラを使いこなせていないもどかしさもあり、 リヴルのボケとか講義とかに振り回されながら成長していきますが、 『邪神秘法書(ネクロノミコン)』に関する知識を導き出して褐色のお姉さんの野望を阻止せんと、 悲痛なまでに必死に戦っていく姿が次第に描かれていきます。
第2巻でもイツキくんは渋々エレシュキガルの風邪回復の為に筆記官として京都に赴くのですが(修学旅行のついでに)。 リヴルさんや、なぜバスガイド姿で(苦笑)。
このエピソードでの注目は【主賓客(イーター)】の登場でしょう。 その独特な雰囲気を持つキャラクターといい、 「まさかそんな戦い方があるなんてね」って思うくらい余りに独走過ぎる戦い方といい、 ある意味シリーズ最強の一人かと。
第3巻では二転三転する展開に振り回されながらなんとか死書アリスと対峙するんですが……。
『ハザール事典』を所蔵し『サラゴサ手稿』を探し求めているウチ的には、 黒髪のヒロインが側にいるだけでも(以下略)
古い書物が登場してそれを回収する為に戦うっていう展開だけでも結構惹かれるのですが(苦笑)、
書物関連や時代背景にまつわる能力などを駆使するキャラクターとして書物が対峙するという展開も加わる為、
その文系アクションは実に心躍らされます。
シリーズ物としても2010年にまだ刊行が始まったばかりと日が浅いですので、なにか目新しい作品が無いかとか、 主人公らが推理し困難を打開していくアクション展開のある作品を探し求めているのなら、 試しに1冊手に取ってみてはどうでしょうか。
(と、書いてみたものの、どう面白いのか説明し切れていない罠。試し読みしてみて引き込まれてくれれば……ですかねぇ)
(以下ネタバレ)
読み進めていく中で主人公に感情移入できたのは、『邪神秘法書』に利用されて死なされ、 行き返させられた未耶への罪悪感をイツキが常に意識している事と、 そんな目にあわせた『邪神秘法書』をも何とか割り切って(仲間にして)利用しようとする事の良し悪しに悩んでいる事、 そういった主人公の苦悩を読み取ってこれたからなのかもしれない。第3巻では更に(逆)恨みをする相手でさえ助け出そうとしていたし。
しっかしあの金野カナの最強振りはマジでヤバイです。第2巻を読めば分かります(苦笑)。 彼女のチカラの凄さを書こうとすると激しくネタバレすぎるのでここでも自粛しときます……。
第3巻では死書『不思議の国のアリス』に主人公らを巻き込んだのが誰だったのか、 その伏線を読み進めていく中で何となく気付いてはいましたけど、とはいえあの真相(それを描いた挿絵)を見た瞬間は、 色々な意味で絶望しそうだったなと(それだけ感情移入していたのです)。その急下降があったからこそ、 その後のハッピーエンドは賑やかで良かった訳なんですけど。
この第3巻で「死作工房」と「製作者(メーカー)」、また「死聴音楽堂」「青の双子」が登場してます。 特に後者についてはだれがマスターなのかが不明なままですので、次の巻で登場するかなぁと期待。
最後にここである意味一番のネタバレ感想を言いますと、 この作品には例えその場では悪事を働いていたとしても最終的に本当に悪い奴がいない、そんな作品なんですよね。 それが自分の好みの作風と本当に上手く波長が合ったんです。これが多分、 この『死想図書館のリヴル・ブランシェ』が今年一番面白いって思うに至った事です。
(似た波長のある作品は『101番目の百物語』『時空のデーモン めもらるクーク』も、 作風は違いますが『アイゼンフリューゲル』も読後感的にはそうですね)
(ここまで)
電撃文庫『死想図書館のリヴル・ブランシェ』
著:折口良乃さん 絵:KeGさん
第1巻 2010年4月発売
第2巻 2010年9月発売
第3巻 2010年12月発売
この作品の大体のあらすじはこんなものです。
読書家の主人公・黒間イツキの夢に突然紛れ込む会話。 そして夢で渡された皮で装丁された表紙の本。それが部屋の机に現実に置かれ決して逃れられなくなった時、 再び夢の中で不可思議な出来事に出くわし、「イエス、マイライター」と従うメイド服の女性と出会う。そう、「文系アクション」なんです、これって。
筆記官(ライター)となり、失われた書物などを収集する「死想図書館」から抜け出した200もの書物を集める事。
読書家としての知識と速記力を駆使し、「真白き本」に伝説の武器などを書き込み、 そのチカラを従者であるメイドで司書のリヴル・ブランシェに与えて戦う。
この「死想図書館」には焚書・禁書により失われた古書・希少本、架空の本、失われた原書の本、 口伝や石版を本に編纂したものが収められているのですけど……、 古代メソポタミアの冥府の女王・エレシュキガル(どう見ても幼女)の命により、 第1巻ではかの有名な架空の魔道書『邪神秘法書(ネクロノミコン)』を、 第2巻では臨済宗の祖・栄西が著した『喫茶養生記』(ウィキペディア)を、 それら図書館から逃げ出した書物をイツキとリヴルは捕えて回収してます。
なお、最新の第3巻では『不思議の国のアリス』と対峙してるんですが、こちらはエレシュキガルの命令とかではなく……。
『死想図書館のリヴル・ブランシェ』の魅力は、やはり登場人物でしょう。 しかしここでそれを全て挙げるとなるとどうしてもネタバレになるので、 簡単な紹介に留めます。
「イエス、マイライター」この中でも特に第2巻から登場のキャラがイイ味を出してきてて……。
【リヴル・ブランシェ】。その名は「真白き本」。
司書と言いながらメイド服をまとい、 ライターが「真白き本」に速記し検索して具現化(アップロード)してくる武器を手に戦う黒髪の女性。人型端末。
というかナース服とか女教師、バスガイド、バニーガール姿になる事もあるのでコスプレマニアとの疑いもある(苦笑)。 そして筆記官に完全隷属していると(ロボットのように)無表情無感動に言いながら、 真顔でからかうかのようにボケをかます事が多く、それにイツキが突っ込んでいる。
「未耶を守るために、俺は何でも使う。なんでもする。 たとえそれが、未耶を殺した死書の力を借りるものであっても、な」
【黒間イツキ】 主人公 筆記官(ライター)
頼みごとが断れない性格な為、律儀に任務をこなしている。 またかなり生真面目な性格で最善を尽くそうと努力を払っている。 本作では彼は行動力と決断力・持て得る知識を武器にリヴルをサポートしながら戦う。
【エレシュキガル】
死と生、終わりと始まりを司る神・古代メソポタミアの冥府の女王。しかしその姿は幼女。姉にイシュタルがいる。 「死想図書館」を作り書物を集めたのもこの女神なのだが、 只今引いている3600年ぶりの風邪の所為で図書館の封印が緩み、 チカラある死書が200冊ほど逃げ出している。 その回収の為に【黒間イツキ】を筆記官として召喚した。
『邪神秘法書(ネクロノミコン)』
快楽主義的なお姉さん。第1巻では未耶を巻き込む結果を招いている。
【矢口未耶】
イツキの幼なじみ。『邪神秘法書(ネクロノミコン)』を回収する戦いに巻き込まれてしまう。
『喫茶養生記』
平安・鎌倉時代の日本臨済宗の開祖・栄西の著した実在の書。
第2巻で登場するその姿は茶飲み坊主なのだが、古くからの怪異を召喚してイツキたちを苦しめるなど、なかなか侮れない敵。
【金野カナ】
第2巻でイツキ達が修学旅行で京都を訪れていた際に知り合う。かなり貧乏らしくバイトで兄弟を支えている。
【セットゥ・アルジャントリ】
第2巻登場。「七つの銀器」。失われた料理や伝説の料理が用意される死食レストランの執事にして料理人。 「主賓客(イーター)」に隷属している。
【主賓客(イーター)】
「死食レストラン」の主であり、セットゥ・アルジャントリの主でもある。
『不思議の国のアリス』
ルイス・キャロルの著作物。本作では更に原書のものが登場している。
さてそのイツキくんとリヴルの活躍ですが、大まかなあらすじと表面的な感想はこんな感じデス。
第1巻ではイツキは「筆記官」初心者というかチカラを使いこなせていないもどかしさもあり、 リヴルのボケとか講義とかに振り回されながら成長していきますが、 『邪神秘法書(ネクロノミコン)』に関する知識を導き出して褐色のお姉さんの野望を阻止せんと、 悲痛なまでに必死に戦っていく姿が次第に描かれていきます。
第2巻でもイツキくんは渋々エレシュキガルの風邪回復の為に筆記官として京都に赴くのですが(修学旅行のついでに)。 リヴルさんや、なぜバスガイド姿で(苦笑)。
このエピソードでの注目は【主賓客(イーター)】の登場でしょう。 その独特な雰囲気を持つキャラクターといい、 「まさかそんな戦い方があるなんてね」って思うくらい余りに独走過ぎる戦い方といい、 ある意味シリーズ最強の一人かと。
第3巻では二転三転する展開に振り回されながらなんとか死書アリスと対峙するんですが……。
『ハザール事典』を所蔵し『サラゴサ手稿』を探し求めているウチ的には、
シリーズ物としても2010年にまだ刊行が始まったばかりと日が浅いですので、なにか目新しい作品が無いかとか、 主人公らが推理し困難を打開していくアクション展開のある作品を探し求めているのなら、 試しに1冊手に取ってみてはどうでしょうか。
(と、書いてみたものの、どう面白いのか説明し切れていない罠。試し読みしてみて引き込まれてくれれば……ですかねぇ)
(以下ネタバレ)
読み進めていく中で主人公に感情移入できたのは、『邪神秘法書』に利用されて死なされ、 行き返させられた未耶への罪悪感をイツキが常に意識している事と、 そんな目にあわせた『邪神秘法書』をも何とか割り切って(仲間にして)利用しようとする事の良し悪しに悩んでいる事、 そういった主人公の苦悩を読み取ってこれたからなのかもしれない。第3巻では更に(逆)恨みをする相手でさえ助け出そうとしていたし。
しっかしあの金野カナの最強振りはマジでヤバイです。第2巻を読めば分かります(苦笑)。 彼女のチカラの凄さを書こうとすると激しくネタバレすぎるのでここでも自粛しときます……。
第3巻では死書『不思議の国のアリス』に主人公らを巻き込んだのが誰だったのか、 その伏線を読み進めていく中で何となく気付いてはいましたけど、とはいえあの真相(それを描いた挿絵)を見た瞬間は、 色々な意味で絶望しそうだったなと(それだけ感情移入していたのです)。その急下降があったからこそ、 その後のハッピーエンドは賑やかで良かった訳なんですけど。
この第3巻で「死作工房」と「製作者(メーカー)」、また「死聴音楽堂」「青の双子」が登場してます。 特に後者についてはだれがマスターなのかが不明なままですので、次の巻で登場するかなぁと期待。
最後にここである意味一番のネタバレ感想を言いますと、 この作品には例えその場では悪事を働いていたとしても最終的に本当に悪い奴がいない、そんな作品なんですよね。 それが自分の好みの作風と本当に上手く波長が合ったんです。これが多分、 この『死想図書館のリヴル・ブランシェ』が今年一番面白いって思うに至った事です。
(似た波長のある作品は『101番目の百物語』『時空のデーモン めもらるクーク』も、 作風は違いますが『アイゼンフリューゲル』も読後感的にはそうですね)
(ここまで)
(2010年12月21日 18:40)
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