2022年のラノベ・文芸・書籍……但し自分の見聞きし読んだ範囲での個人的な話題
※読書メーターの本棚、2022年に読んだ小説など(全部ではないですが)
※一部同人誌が読書メーターに登録されていると知ったのも2022年の事でしたな。
◆ミステリ系クライム系伝奇系ラノベ、続刊継続と新規作品の登場
『また殺されてしまったのですね、探偵様4』 (MF文庫J てにをはさん)
『霊能探偵・藤咲藤花は人の惨劇を嗤わない3』 (ガガガ文庫 綾里けいしさん)
『ビブリア古書堂の事件手帖III 扉子と虚ろな夢』 (メディアワークス文庫 三上 延さん)
『博多豚骨ラーメンズ11』 (メディアワークス文庫 木崎ちあきさん)
『探偵はもう、死んでいる。7』 (MF文庫J 二語十)
『アマルガム・ハウンド 捜査局刑事部特捜班(1・2)』 (電撃文庫 駒居未鳥さん)
『サマータイムレンダ2026 小説家・南雲竜之介の異聞百景』 (JUMP j BOOKS 半田 畔さん・田中靖規さん)
『百合の華には棘がある』 (メディアワークス文庫 木崎ちあきさん)
『死亡遊戯で飯を食う。』 (MF文庫J 鵜飼有志さん)
『僕らは『読み』を間違える』 (角川スニーカー文庫 水鏡月 聖さん)
『腕を失くした璃々栖 明治悪魔祓師異譚』 (角川スニーカー文庫 明治サブさん)
とりあえず2022年に読んだ作品は以上ですかね。
『また殺されてしまったのですね、探偵様』と『霊能探偵・藤咲藤花は人の惨劇を嗤わない』の2作品が無事続巻が出続けて安堵してます。どちらも中々に特殊な状況で探偵が活躍しているので、次に何を舞台にするか予想不可能で楽しみです。
『ビブリア古書堂』シリーズは現実的な舞台での推理といった感じではありますが、本に絡む情念が相変わらず濃い。
21年にアニメ化を機会に読み始めた『探偵はもう、死んでいる』シリーズは派手なアクションとかの印象が強くてミステリに含めるか相変わらず迷うけど面白く読ませてもらってます。『博多豚骨ラーメンズ』の方は23年2月に12巻が出るそうです。去年だと『百合の華には棘がある』というスピンオフも出てます。
去年の新規で今後に期待の作品で挙げれば『アマルガム・ハウンド 捜査局刑事部特捜班』というSF的なクライムサスペンスでしょうか。魔導兵器アマルガムとか色々とファンタジー要素がありながらも、欧州風の街並みの世界観を舞台にしっかり事件物として描かれているので。
『死亡遊戯で飯を食う。』はタイトル通りにデスゲーム作品。主人公周りが割と容赦なく死ぬ。この1冊だけでも趣向を凝らした2つのデスゲームを観ることが出来ます。
『僕らは『読み』を間違える』も、最初は読書感想と絡めた学生のお話という雰囲気だったのが、複数の人物と彼ら彼女らの感想文、そして内面でしか語られていない事情と、分からないからこそ「読み」違えてしまう切なさを目にすることで、青春群像劇的な日常系ミステリだと気付かされました。しかしまだ読書感想とか語ってない人物がいます。全てのピースが揃った時、絡まった人間関係がどんな結末を描くのか、続きに期待したいです。
伝奇的な作品で挙げるなら『腕を失くした璃々栖 明治悪魔祓師異譚』ですね。明治の近代化した世界観と悪魔と悪魔祓師が交わるゴシックホラー、真言密教とか東洋魔術と西洋魔術が絡み合い、ちょっと古風な文体が時代の雰囲気を出しながらも、活劇と謎に満ちた熱い展開が見ものです。
新規作品で第2巻が予告されてるのはMF文庫Jライトノベル新人賞優秀賞の『死亡遊戯で飯を食う。』(第2巻は23年1月の発売)、第27回スニーカー大賞・金賞の『腕を失くした璃々栖 明治悪魔祓師異譚』と銀賞『僕らは『読み』を間違える』、と良い具合に当たりを引いてますね。
◆アサウラさん作品
『小説が書けないアイツに書かせる方法』(電撃文庫)
『リコリス・リコイル Ordinary days』 (電撃文庫)
『サバゲにGO! はじめてのサバイバルゲーム(1・2)』 (LINE文庫エッジ)
『道―MEN 北海道を喰いに来た乙女』 (ダッシュエックス文庫)
いや本当に『リコリコ』スピンオフの店頭販売が遅れた所為で代わりに読みだした同時発売の作品がきっかけで、その作風を知って他の作品を買い漁ったという感じです。『ベン・トー』(タイトルだけは知ってましたが)を書いた方だと気付くまで本気で手慣れた新人ラノベ作家かエロゲシナリオ作家からの転出、アニメ脚本作家(『リコリコ』脚本担当)のラノベデビューだと思ったくらいで。サバゲとか重火器、喰、味のある迷脇役など過去作での成果が2冊の最新作に結実されたんだなって思いました。
■『サラゴサ手稿』を巡るいくつかの謎が明らかに
長らく恐らく自治体の大きな図書館や大学図書館でしか収蔵がないと思われる『サラゴサ手稿』翻訳本が、新たな全訳本として2022年、たいていの書店で扱いのある岩波文庫より畑浩一郎氏によって刊行されました。
それまでこの作品は国内では、1958年の「カイヨワ版」(14日目まで収録)を翻訳したと思われる国書刊行会の世界幻想文学大系に収録された1980年刊行の工藤幸雄氏が翻訳された書籍が(図書館に収蔵される程度でですが)一般的だったと思われます。それは幻想文学の解説書『幻想文学概論序説』(1970年ツヴェタン・トドロフ著 三好郁朗訳 1999年創元ライブラリ)でも高い頻度で事例として取り扱われ“フランス語で書かれた幻想小説の先駆と見なされ(岩波文庫『サラゴサ手稿(中)』訳者解説)”たように、半世紀にも渡り長く幻想文学的な作品として位置付けられてきたのです。
その後、1989年になって全貌を明らかにした「コルティ版」(66日目まで収録)が海外で刊行され、恐らくその翻訳として工藤氏が66日版の翻訳を手掛けられ、やがて出版されるだろうと『幻想文学論序説』の1999年7月12日付訳者あとがきで触れられてから23年余り……。
2022年秋、突如岩波文庫から畑浩一郎氏による「初の全訳」とする書籍が刊行されたのです。何よりも驚きなのは本当に初めての全訳としての出版だった事もですが、それが61日目までの内容だという事、そして2002年に“ポーランドのポズナニで調査を行っていた二人の研究者(フランソワ・ロセとドミニク・トリエール)があらたに六篇のポトツキの草稿を発見”し、“『サラゴサ手稿』には少なくともふたつの異なるバージョンが存在する(岩波文庫『サラゴサ手稿(中)』の訳者解説2「『サラゴサ手稿』の来歴」より)”という発見があったという事実でした。そこまでアンテナを立ててはいなかったから、そのような噂も全く初耳で。ともかく、66日目までの全訳が未だ刊行されなかった経緯を想像させるだけの出来事がこの20年ぐらいの間にあったというのです。色々と考察した記事も去年11月に書いてました。
……実は年末までに旧訳に当たる国書刊行会版で翻訳されていた14日目から少し先まで新訳を読み進めてましたが、幻想文学的事例とされた何度もループするかのような出来事もそうではなくなったりと、確かにいくつかの場面が異なった内容に変わっていたり幻惑的な表現が薄れているようなという感じに変わってはいますが、まだより具体的な新訳旧訳読み比べには至ってないです……年末ごろからも進展がないとか(仕事とかで忙しくて)。そうこうしてるうちに来週1月17日には下巻も刊行されます。
◆並木 陽さんの歴史同人ノベルと舞台化、商業作品化
7世紀ブリタニア。アングロ・サクソン7王国時代を舞台に祖国ディアラを征服したバーニシア王アゼルヴリスに嫁いだディアラ王家の姉アクハと祖国再興を志す弟エドウィンが臨む全ブリタニア覇権を巡る物語『ノーザンブリア物語(上下巻)』。モンゴルの征服迫る13世紀のジョージア、モンゴルに破壊された故国復興の足掛かりを求めるホラズム王子の侵攻に翻弄され、兄王の死や慕っていたルームセルジュークの王子ディミトリの(故あっての)裏切りに遭いながらも、ホラズムに奪われていた都トビリシを取り戻す王女ルスダンの物語『斜陽の国のルスダン』
22年4月に同人誌生活文化総合研究所の三崎尚人さんのリツイートで作者の方の『斜陽の国のルスダン』宝塚上演告知を知らされなかったら、この作品について知る機会がなかったか、かなり遅れてたと思う。事実、知ってすぐその同人誌小説文庫を取り寄せようと動いた数時間前に品切れてて、後日の改訂版を入手するまで待ち焦がれてましたし。その時に代わりに取り寄せて先に読ませていただいたのが『ノーザンブリア物語』でした。同人誌と言っても市販の文庫本と見劣りしない形であり、そして波乱に満ちた壮大な物語を収めてあります。なお、『斜陽の国のルスダン』は宝塚での舞台化で注目されたのに合わせて22年11月に星海社FICTIONSにて新書サイズのノベルとして商業出版されてます。
自分もいつかはそう言った歴史を舞台とした物語を書きたいと思ってましたが(いやもうずっと思ってるだけになってるけど)、歴史大作を小説にするならもっと分厚くなる分量でなければならないと今まで身構えるかのように思ってました。その価値観を覆す意味でも個人的にはかなり印象的な作品群だと言えます。
◆ハザール汗国
『物語 ウクライナの歴史』(中公新書 黒川祐次著)の中で、コーカサス北部~南ロシアに存在したハザール汗国という初期キエフ大公国と関わりのある国家について触れられてました。その内容については見聞きしてたテキストと似ているなと思いましたが『ハザール 謎の帝国』を参考文献とされてたそうで。歴史からすればかなりマイナーともいえるハザール汗国について、少しでも知っていただける機会になったのではないかなと思います。
◆中央総武線最寄りP『CINDERELA TRIBUTE』シリーズのBOOTH通販開始
心霊科学捜査官シリーズや『ヒト夜の永い夢』『アメリカン・ブッダ(第52回星雲賞日本短編部門受賞)』『走馬灯のセトリは考えておいて』『スーサイドホーム』『メイド喫茶探偵黒苺フガシの事件簿』などSFから伝奇的な作品、ミステリまで手掛ける戦国武将と同じ名前でも話題の柴田勝家氏、
『PSYCHO-PASS サイコパス』の「ASYLUM」「GENESIS」という公式外伝や「Sinners of the System」や3期のアニメ脚本にノベライズ、『泥の銃弾』などのハードボイルドやSF作品などを手掛ける吉上亮氏、
『伊藤計劃トリビュート』収録の「仮想(おもかげ)の在処」など書かれたSF作家の伏見完氏
この3人を中心に、更に21年冬コミではアニメ『正解するカド』の野崎まど氏、『ストライク・ザ・ブラッド』の三雲岳斗氏、漫画原作者・シナリオライターの渡辺零氏が加わる形で、「バベル」などアイドルマスターシンデレラガールズやそのゲーム内イベントを元に想像を膨らませた形で、割と本気なSFやミステリー、伝奇といった作風の短編を集めたデレマス二次創作アンソロジー同人誌『CINDERELA TRIBUTE』シリーズ。
それまではコミックマーケット会場内でしか頒布がなくって、2017年夏コミ会場で彷徨っていた時に偶然サークルスペース前に流れ着き手に取り購入した第1号誌以降、コミケでのそのサークルの参加がなかったり、冬コミでの新刊刊行だったり、自分自身の夏コミとかへの参加が出来なくなってたり、でそちらの同人誌を手にする機会がなくなり、コミケ直前に挙がるサンプルページだけを何度も読み返すなどして我慢してきました。それが22年に入って、21年冬コミ新刊がBOOTH通販され(1次出荷分は察知遅れて2次で注文)、春には2冊目を除く既刊が通販で取り扱われ、22年夏コミ新刊も通販で扱われたのです。21年冬コミ本はギックリ腰でリハビリ中に何度も読み返してましたな。
SF作家の方々が手掛けるその壮大かつ創造豊かな短編は読み応えもあり、次の作品が楽しみでなりません。
◆『このラノベがすごい』でミステリー系ラノベの取り扱い枠がなくなっていたこと。
数年前まではジャンルごとの紹介があり、ガイド本として重宝してた時期もあったこの年刊本でしたが……。
一方、『2023本格ミステリ・ベスト10』では数ページに渡り紹介記事が掲載されてました。
◆エールエールA館への移転に明確に反対します。(広島市中央図書館建替問題)
※こちらについては昨日にブログに載せてますので。
(22年1月14日15:35)
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