2024年2月 6日 (火)

ミステリー系ラノベの刊行予定 2024年版

※タイトルとあらすじより、ミステリー系と思われるラノベをリストアップしていくだけです。時々更新の予定。

ラノベの杜での刊行予定表を参照


角川スニーカー文庫
HJ文庫
講談社ラノベ文庫
電撃文庫
このライトノベルがすごい!文庫
GA文庫
ガガガ文庫
富士見ファンタジア文庫
富士見ドラゴンブック
MF文庫J
ダッシュエックス文庫
オーバーラップ文庫
ファミ通文庫
ヒーロー文庫
モンスター文庫(双葉社)

 

※【タイトル 筆者/イラストレーター】という表記となります。敬称略。

●自分が購入したラノベ


1/10 電撃文庫
●不可逆怪異をあなたと2床辻奇譚 古宮九時/二色こぺ
●セピア×セパレート 復活停止 夏海公司/れおえん

1/25 オーバーラップ文庫
●魔法警察ファンシー☆マリリン1~証拠がなくても即逮捕!~ やますやま/さまてる

1/30 ファミ通文庫
●非科学的な犯罪事件を解決するために必要なものは何ですか? 色付きカルテ/よー清水

2/15 GA文庫
●マーダーでミステリーな勇者たち 火海坂猫/華葡。

2/19 ガガガ文庫
●お兄様は、怪物を愛せる探偵ですか?2~とぐろを巻く虹~ ツカサ/千種みのり
●獄門撫子此処ニ在リ2赤き太陽の神去団地 伏見七尾/おしおしお

2/20 富士見ファンタジア文庫
□スパイ教室 短編集05 『焔』より愛をこめて 竹町/トマリ
●夏目漱石ファンタジア 零余子/森倉円

2/24 MF文庫J
●夏凪渚はまだ、女子高生でいたい。2 月見秋水/はねこと
●マスカレード・コンフィデンス2詐欺師は少女と仮面仕掛けの旅をする 滝浪酒利/Roitz

3/18 ガガガ文庫
●少女事案② ~白スク水で愛犬を洗う風町鈴と飼い犬になってワンワン吠える夏目幸路~ 西 条陽/ゆんみ

3/25 MF文庫J
□また殺されてしまったのですね、探偵様5  てにをは/りいちゅ
□探偵はもう、死んでいる。11  二語十/うみぼうず
□シャーロック+アカデミー Logic.3 カラスが虹に染まる時 紙城境介/しらび
黒幕ゲーム 学園の黒幕ですが完全犯罪で世界を救ってもいいですか?  久追遥希/たかやKi

3/29 ヒーロー文庫
薬屋のひとりごと15  日向夏/しのとうこ

 

4/25 MF文庫J
●死亡遊戯で飯を食う。6  鵜飼有志/ねこめたる

【過去記事】

『このライトノベルがすごい!2024』ムック本内での結果発表。2023年度はライトノベルミステリー流行の兆し?
ライトノベル文庫でミステリー物はどれぐらい出てるんだろう?(19年12月~23年12月暫定)
広島が舞台の「ご当地ラノベ」(2023年6月暫定版)

(2/6 ページ作成)

(2/20 修正と追記 過去記事リンク追加)

(3/25 修正と追記)

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2023年12月 4日 (月)

『このライトノベルがすごい!2024』ムック本内での結果発表。2023年度はライトノベルミステリー流行の兆し?

※先週『このラノ2024』発表とかありましたが、その結果がまとめられたムック本の入手に手間取り(というか広島での入荷が遅いので)、更に体調不良とかも重なってしまって、結果を受けての記事を書く暇というか、記事の方向性とか考える余裕がなくて、時間をかなり置いてしまいましたorz

「2023年度はライトノベルミステリー流行の兆し?」と打って出てはいますが……ジャンルでの刊行数の増加傾向ぐらいしか、自分としてはその推定を出すに至らなかった事だけは、先にお伝えしときます。

(関連記事)

ライトノベル文庫でミステリー物はどれぐらい出てるんだろう?(19年12月~23年12月暫定)
『このライトノベルがすごい!2024』に投票してきました。

 

  ◆  ◆  ◆  ◆


<<『このラノ2024』の2023年度各結果でのミステリー作品>>


【文庫部門BEST50】 50作品中10作品
2位★死亡遊戯で飯を食う。
7位★僕らは「読み」を間違える
10位 探偵はもう、死んでいる。
12位★不死探偵・冷堂紅葉
15位 薬屋のひとりごと
17位 スパイ教室
22位★シャーロック+アカデミー
24位★さよなら、私たちに優しくなかった、すべての人々
26位★十五の春と、十六夜の花
27位★獄門撫子此処二在リ

※【今年度新作BEST25】では25作品中、★の付いた7作品


【協力者ランキング トップ30】でのラノベミステリー
2位 死亡遊戯で飯を食う。
5位 僕らは「読み」を間違える
10位 十五の春と、十六夜の花
11位 不死探偵・冷堂紅葉
13位 さよなら、私たちに優しくなかった、すべての人々
17位 シャーロック+アカデミー
19位 獄門撫子此処二在リ

 

【協力者が選ぶ!ライトノベルBEST5】より、単純に作品が挙げられた回数で、ミステリー作品(と思われる)の投票数を集計

19 死亡遊戯で飯を食う
12 僕らは『読み』を間違える
8 不死探偵・冷堂紅葉
8 十五の春と十六夜の花
6 さよなら、私たちに優しくなかった、すべての人々
5 獄門撫子此処二在リ
5 シャーロックアカデミー
2 ミリは猫の瞳のなか
1 腕を失くした璃々栖
1 不可逆怪異をあなたと
1 30ページでループする
1  呪われて、純愛
1  薬屋のひとりごと

※以上の結果から見られるのは、【文庫部門BEST50】の中でミステリーものが10作品と1/5を占めていて7作品が新規作品だという事と、それ以外にも【協力者が選ぶ!ライトノベルBEST5】で色々な作品が紹介されていた事でしょう。


  ◆  ◆  ◆  ◆


<<2023年のラノベ界隈ではラノベミステリーは増えたか?>>

※2023年度の【文庫部門BEST50】でのラノベミステリーの割合は10作品でした。これが多いか他のジャンルとの割合比較まで出してないので比べようがありませんが、過去の【文庫部門BEST】(が掲載された各年度の『このラノ』ムック本)から比較することが出来ました。

2022年度【文庫部門BEST50】 50作品中3作
8位 スパイ教室
10位 探偵はもう、死んでいる。
33位 薬屋のひとりごと

2021年度【文庫部門BEST40】 40作品中4作
8位 探偵はもう、死んでいる。
13位 スパイ教室
34位★ユア・フォルマ
39位 薬屋のひとりごと

2020年度【文庫部門BEST40】 40作品中3作
2位★スパイ教室
4位★探偵はもう、死んでいる。
35位 薬屋のひとりごと

 もしかしたらミステリー要素もある作品の見落としもあるかもしれませんが、とりあえず21年度から23年度までの【文庫部門BEST】見つける事の出来たのは4作、去年から今年にアニメ化を果たしていた『スパイ教室』『探偵はもう、死んでいる。』『薬屋のひとりごと』、アニメ化が決定してる『ユア・フォルマ』でした。2019年度以前については手元にそれらのムック本が無かったので……

 特に『スパイ教室』『探偵はもう、死んでいる。』『薬屋のひとりごと』の3作品は2023年度でも【文庫部門BEST50】に挙がっているように安定した人気がある作品となってます。

 ちなみに3作品のうちの2作品が登場した2020年度(19年9月~20年8月)の新規タイトルのラノベミステリーでは、

【2019年】

11/25 MF文庫J
探偵はもう、死んでいる。(第15回ライトノベル新人賞 最優秀賞)

12/18 講談社ラノベ文庫
天才美少女生徒会長が教える民主主義のぶっ壊し方 生徒会探偵キリカ 番外

【2020年】

1/18 富士見ファンタジア文庫
スパイ教室01 《花園》のリリィ (第32回ファンタジア大賞 大賞作を改稿)

5/25 MF文庫J
探偵くんと鋭い山田さん 俺を挟んで両隣の双子姉妹が勝手に推理してくる

6/18 ガガガ文庫
シュレディンガーの猫探し (第14回小学館ライトノベル大賞 審査員特別賞受賞作)

といった5タイトルの作品が登場してました。『探偵くんと鋭い山田さん』『シュレディンガーの猫探し』は買って読んでましたね。更に言えば、2011年から続いていた『生徒会探偵キリカ』シリーズ10冊目に当たる最新作『生徒会探偵キリカS1』(現在出てるシリーズでは最新刊)が19年12/18に(番外編と同日で)講談社ラノベ文庫より出てた頃にもなります。

 参考に、2019年度(18年9月~19年8月)については刊行予定表でミステリっぽいタイトルかな~という感じでパッと見で調べてみましたが

富士見ファンタジア文庫 19年3/20
札幌市白石区みなすけ荘の事件簿 ココロアラウンド 辻室翔 霜月えいと

電撃文庫 19年7月10日
淫らで緋色なノロイの女王  著者:岩田 洋季 イラスト:鍋島 テツヒロ

という作品を見かけました(見落としありそう)。ただ、続巻が刊行されるような作品はこの年度では見られず、『探偵はもう、死んでいる。』までは出てないようです。

 となると、やはり2020年度の動向に、後のライトノベルミステリーの兆しが見えるのかもしれません。

 

 続いて、2021年度以降以降の新規タイトルを挙げてみます。

2021年度(20年9月~21年8月)のラノベミステリー新規作品(5作品)

【2021年】

12/19 富士見ファンタジア文庫
ナゾトキ女とモノカキ男。 未来を写すカメラと人体消失

【2021年】

1/14 GA文庫
忘れえぬ魔女の物語 (第12回GA文庫大賞金賞)

3/10 電撃文庫
ユア・フォルマ 電索官エチカと機械仕掛けの相棒 (第27回電撃文庫大賞 大賞)

6/18 ガガガ文庫
楽園殺し 鏡のなかの少女

8/25 MF文庫J
また殺されてしまったのですね、探偵様


2022年度(21年9月~22年8月)のラノベミステリー新規作品(6作品)

【2021年】

10/25 MF文庫J
迷探偵の条件1

11/18 ガガガ文庫
霊能探偵・藤咲藤花は人の惨劇を嗤わない

12/24 角川スニーカー文庫
マーディスト ―死刑囚・風見多鶴― (上)

【2022年】

6/10 電撃文庫
明日の罪人と無人島の教室

7/8 電撃文庫
アマルガム・ハウンド 捜査局刑事部特捜班 (第28回電撃文庫大賞 選考委員奨励賞)

8/18 ガガガ文庫
SICK ―私のための怪物―


2023年度(22年9月~23年8月)のラノベミステリー新規作品(22作品)

【2022年】

10/7 電撃文庫
呪われて、純愛。

11/1 HJ文庫
EVE ―世界の終わりの青い花―

11/25 MF文庫J
死亡遊戯で飯を食う。(ライトノベル新人賞 優秀賞)

12/01 角川スニーカー文庫
腕を失くした璃々栖 ~明治悪魔祓師異譚~ (第27回スニーカー大賞 金賞)
僕らは『読み』を間違える (第27回スニーカー大賞 銀賞)

12/9 電撃文庫
君はこの「悪【ボク】」をどう裁くのだろうか?
パーフェクト・スパイ

12/20 富士見ファンタジア文庫
名探偵は推理で殺す 依頼.1 大罪人バトルロイヤルに潜入せよ

12/28 講談社ラノベ文庫
十五の春と、十六夜の花 ―結びたくて結ばれない、ふたつの恋―

【2023年】

1/7 電撃文庫
不可逆怪異をあなたと 床辻奇譚

3/10 電撃文庫
ミリは猫の瞳のなかに住んでいる (第29回電撃文庫大賞 金賞)

3/17 ガガガ文庫
お兄様は、怪物を愛せる探偵ですか?

3/25 MF文庫J
魔女の怪談は手をつないで 星見星子が語るゴーストシステム

4/7 電撃文庫
30ページでループする。そして君を死の運命から救う。

6/23 MF文庫J
シャーロック+アカデミー Logic.1 犯罪王の孫、名探偵を論破する

7/14 GA文庫
不死探偵・冷堂紅葉 01.君とのキスは密室で (第15回GA文庫大賞 銀賞)

7/25 MF文庫J
魍魎探偵今宵も騙らず

7/25 オーバーラップノベルス
シャーロット・ホームズは推理しない ~人狼って推理するより、全員吊るした方が早くない?~

8/01 角川スニーカー文庫
異世界転生事件録 人見知り令嬢はいかにして事件を解決したか? 1

8/18 ガガガ文庫
獄門撫子此処二在リ (第17回小学館ライトノベル大賞 大賞)

8/19 富士見ファンタジア文庫
超探偵事件簿 レインコード オレ様ちゃんはお嫁さん!? 1

8/25 MF文庫J
夏凪渚はまだ、女子高生でいたい。1 探偵はもう、死んでいる。Ordinary Case


 20年度から23年度まで見ると、それまで5~6作品だった新規タイトルが23年度では22タイトルと大幅に増えている事が分かります。

 ただ、続巻が継続的に出ているタイトルというと、上記の【文庫部門BEST】連続ランキング内の3タイトル以外ではかなり限られます。
『また死んでしまったのですね、探偵様』は4巻が刊行された22年10月以降続巻が出てませんし、伝奇アクションで勢いのあった『腕を失くした璃々栖』も2巻で完結。『シュレディンガーの猫探し』は全3巻で学校生活内から学園祭、更に田舎での因習伝奇と幅広くミステリーしてて良かったので次回作を心待ちし続けているのですが……。『アマルガム・ハウンド』3巻目が……カクヨムの方で23年4月に完結編が公開されてました『忘れえぬ魔女の物語』もコミカライズがいつ原作に追いついちゃうのか~その世界の謎に近づけるよう早く続きが読みたいです。それ以外にもナンバリングされてるけど1巻目以降音沙汰が……というタイトルもあります。もちろん1冊完結の作品もありますが。


  ◆  ◆  ◆  ◆


<<『このラノ2024』でのラノベミステリーへの注目>>

【協力者ランキング トップ30】の解説(P77)より
“また、今年はミステリものが多数出版されたことを裏付けるように、『不死探偵・冷堂紅葉』や『シャーロック+アカデミー』といったタイトルも上位に食い込んだ。果たしてミステリライトノベルは1ジャンルとして定着するのか、来年の結果を楽しみに待ちたい”

【9月以降刊行の注目の最新作】の解説(P158)より
”謎を解く――ミステリ要素が散りばめられた作品が多く刊行された2023年”
 角川スニーカー文庫『誰が勇者を殺したか』、電撃文庫『ブギーポップは呪われる』、富士見ファンタジア文庫『魔術探偵・時崎狂三の事件簿』、MF文庫J『カルネアデス』の4タイトルを紹介

【『このラノ』的ラノベ語り!!】(P190)より
”ライトノベルミステリー流行? 謎解きが物語の決め手となる”

 今回、2023年度の話題としてラノベミステリーが増えたとの声が、ランキングや企画ページでの解説、”今年はなんといってもライトノベルにミステリブームが到来した年でした(nyapoonaさんのコメント)”などの協力者の方のコメントで見受けられました。

 更に【『このラノ』的ラノベ語り!!】の解説では、その増加傾向の背景について
”ミステリーの場合では、テーブルトークゲームとして流行してきた「マーダーミステリー」を受けていることも考えられるだろう”
と考察されています。
「マーダーミステリー」ゲームについては初めて聞きました(というぐらい自分の視野が狭いのです)ので、それが影響を与えたのかについては自分には分からなかったのですが。ただ、「マーダーミステリー」についてウィキペディアの記事を見ると、GA文庫作品『月見月理解の探偵殺人』や今期2位の『死亡遊戯で飯を食う。』などが題材とした所謂「人狼ゲーム」もその派生のようですから、そうした点から見て影響があったと言えるのでしょう。

 解説の中で興味深い事といえば”ライトノベルでのミステリーは、長らく流行らないと言われてきた”とのコメントがあったり、協力者の方からのコメントでも”富士ミスやスニミスから続いた長い苦闘(nyapoonaさん)”と述べられたりされて事ですね。

※これについて、自分は『龍ヶ嬢七々々の埋蔵金』『生徒会探偵キリカ』『神様のメモ帳』『月見月理解の探偵殺人』と続巻を重ねたタイトルや、紙城境介さんデビュー作の『ウィッチハント・カーテンコール 超歴史的殺人事件』『クロクロクロック』『ジンクスゲーム』や二丸修一さんの『ギフテッド』などミステリー物みたいなラノベを読んでいたり、『ビブリア古書堂』シリーズというライト文芸系を読んできた……と挙げてみるだけで多彩な作品が並びますから中々実感がなかったのですが、ただ、いくつかのタイトルで数冊で完結したり、完結を見ずに打切りとなった作品もあったなと振り返りました。

”ライトノベルに近しい(キャラクターが立った作品が人気の)ライト文芸でミステリーの土壌が育ってきたことで、ライトノベルのほうにもミステリーが流れ込んできたとも考えられる”
という解説の指摘も、ライトノベルミステリーの増加への影響として見逃せないでしょう。ライト文芸については自分は『ビブリア古書堂』シリーズや『博多豚骨ラーメンズ』などのメディアワークス文庫はチェックしてましたが、それ以外のレーベルについてはミステリものが色々あるみたいだなという程度の認識でした。ただし、ここ数年、ライト文芸などのミステリーのアニメ化が何本か放映されてましたね。

『アンデッドガール・マーダーファルス』 講談社タイガ 青崎有吾さん著(カバーは大暮維人さん)
『啄木鳥探偵處』 創元推理文庫 伊井圭さん
『京都寺町三条のホームズ』 双葉文庫 望月麻衣さん
『虚構推理』 講談社 城平京さん
『バチカン奇跡調査官』 角川ホラー文庫 藤木稟さん
『美少年探偵団』 講談社タイガ 西尾維新さん
『宝石商リチャード氏の謎鑑定』 集英社オレンジ文庫 辻村七子さん

 ラノベを書かれてる作家の方や志望される方の中にライト文芸でのミステリー作品から刺激を受けて、新たな作品を書かれる又は書き始める、という事もあったのかもしれません。


  ◆  ◆  ◆  ◆


<<2020年度の『このラノ』は24年度ラノベミステリーの発端だったか?>>

 2020年度の『このラノ』では『探偵はもう、死んでいる。』や『スパイ教室』が登場してます。そしてそれらに加えて20年度以前からBEST40に入っていた『薬屋のひとりごと』の3作品が、20年度以降24年度まで連続してBEST40~50に挙がっていることは先に触れたとおりです。

 それらの3作品が刺激となって、20年度以降にラノベ作品や各ラノベ新人賞への応募作品でミステリー傾向の作品が書き始められた、という場合もあるかもしれない。そんな推測も出来てしまいますが……

鵜:自分の場合は、これこそがトレンドだと思っていたんですよね。投稿時代に『たんもし』や『スパイ教室』などの隆盛を見て、ライトノベルの文法を使ってそれ以外のジャンルのお話をやっていると解釈したんです。では自分が書けるジャンルが無いかと考えた結果、デスゲームものになりました。
(同時発売記念! 『探偵はもう、死んでいる。』著者・二語十&『死亡遊戯で飯を食う。』著者・鵜飼有志Wインタビュー)

 具体的な証言がこちらのインタビュー応答の一例だけだと、とりあえず少なくとも……という程度なので、3作品が影響を与えたと言い切るには弱いですよね。各新人賞への応募でのジャンル傾向とか分かれば何か見えそうですが。


  ◆  ◆  ◆  ◆

 

<<補足 「ラノベニュースオンライン」サイトでのいくつかのインタビュー記事>>

独占インタビュー「ラノベの素」 竹町先生『スパイ教室』
まず自分の中で大きなウエイトを占めている作品が、石田衣良先生の『池袋ウエストゲートパーク』。ミステリ的な要素や事件を追っていくタイプの作品ですね。あとは湊かなえ先生の『告白』も面白いですよね。現在のバイブルはこの2作品でしょうか。ライトっぽいミステリ小説の魅力に関しては、作品への入度にあると思っています。謎というわかりやすい物語の提示から作品に入り込めること、そしてトリックや物事が明かされていくにつれて見えてくる、登場人物の想いや苦しみだったり、人間像が次々に提示されていくカタルシスが非常に好きです。知的好奇心が旺盛なのかもしれません(笑)。

(スパイを題材にしようと考えたきっかけはなんだったのでしょうか。)
きっかけのひとつとして柳広司先生の『ジョーカー・ゲーム』がありました。アニメでは『プリンセス・プリンシバル』という作品も印象的で、ミステリ的な手法をうまく取り入れてキャラクターが活躍している作品だと感じていました。エンタメで描く騙し合い、情報を隠した中で展開するミステリ要素。自身がミステリ好きであることや、スパイとミステリ要素の親和性に着目した結果、スパイを題材にしようと考えました。


独占インタビュー「ラノベの素」 紙城境介先生『シャーロック+アカデミー』
結論から言うとミステリーです。そもそも僕は『ウィッチハント・カーテンコール 超歴史的殺人事件』(ダッシュエックス文庫刊)というミステリーの作品でデビューしているわけなんですけど、その後にミステリーをやらなかった理由がいくつかあったんですよ。1つは単純に売れなかったから。もう1つは、最初の2作品が特に顕著なんですけど、僕自身が「どんでん返し」を組み入れる作風だったんです。でも書きながら思ってしまったんですよ。この作風をずっと続けるのは無理だなと。(中略)『僕が答える君の謎解き』(星海社FICTIONS刊)を書いた結果、どうやらそんなにどんでん返しがなくてもミステリーは書けるらしいってことに気付かされたんです。特に第2巻はミステリー好きの方たちからの評価も良く、じゃあいけそうだっていう手応えを掴んで今を迎えているっていう感じですね。

※それ以外にもライトノベルでのミステリーについて多くの事を語られてます。


独占インタビュー「ラノベの素」 菊石まれほ先生『ユア・フォルマ 電索官エチカと機械仕掛けの相棒』
募に至るまでオリジナルの作品を何本か書いてきて、私自身がどのくらいの実力があるのか知りたくなったというのが最初の応募動機だったと記憶しています。選評をいただけるということもあり、私の作品がどう判断されるのか知りたいなと。『神様のメモ帳』や『狼と香辛料』といった作品がとても好きだったこともあり、初めて送った賞は電撃大賞でした。


  ◆  ◆  ◆  ◆


<<次に来るかもしれないラノベミステリー>>

 23年度【文庫部門BEST50】の『不死探偵 冷堂紅葉』も11月に2巻目が刊行され、【文庫部門】で第2位だった『死亡遊戯で飯を食う。』がこの1年で4冊も続巻し続けこの12月には待望の第5巻が出ます。燃えるような伝奇アクションが激しい『獄門撫子此処二在リ』も2巻目が執筆されてますし、電撃文庫の『不可逆怪異をあなたと 床辻奇譚』も年明け1月に第2巻が出るそうです。

 また【9月以降刊行の注目の最新作】で挙げられてました『誰が勇者を殺したか』も早くも続巻が決まってます。

 23年年末12月にはMF文庫Fライトノベル新人賞の審査員特別賞受賞作『探偵に推理をさせないでください。最悪の場合、世界が滅びる可能性がございますので。』電撃文庫『双子探偵ムツキの先廻り』も出ますし……11月新刊でミステリかもしれないと購入したラノベも積み残してるし~読み切れない!? 今年はどんだけラノベミステリーが刊行されてるんだ~~!!

 それ以外でもライト文芸などから、もしくは今回の『このラノ2024』のベストランキングや来年度の各文庫レーベルでの各受賞作などから刺激を受けて、今年のデビュー作のような新たなラノベミステリー作品が現われるかもしれません。今年登場タイトルの続編とか読みたいですよね!!
 ……というか今この時にもどなたかが懸命に執筆されているはず!! ともかく来年が楽しみですね。

(2023年 12月4日 18:00 1週間前から書き始めて結論に至らないままにorz)

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2023年11月16日 (木)

見失われたもうひとつの全訳『サラゴサ手稿』を求めて

◆『サラゴサ手稿』について

 18~19世紀に生きたポーランドのヤン・ポトツキによって書かれたものの、長く未完全のままだったフランス語の長編小説『サラゴサ手稿』。それは大まかに伝えるなら次のような物語です。


 スペインの国王フェリペ5世からワロン人衛兵隊長に任命され、拝命の為にマドリードに向かう騎士のアルフォンソが道中のスペイン南部シエラ・モレラ山脈をさまよう中で出会う、様々な人たちとそれらの語る数々の物語、更に物語の中の人物の語る物語。
 ナポレオン軍のサラゴサ包囲戦に参加したフランス軍将校が回収したそれらの物語が書かれたスペイン語の草稿を、フランス語に訳したもの。
 
 語られる物語の中には不可解不可思議な出来事もある事から、この『サラゴサ手稿』はフランス語幻想文学の先駆だとみなされるなどされてきました。更に、未完のまま作者自身の印刷で1805年に地下出版された書物に始まり、欧州各地に散った原稿を搔き集めて何度も編集出版が試みられてきましたが、それでも不完全な物語に留まっていた為に、より完全な姿に蘇らせようとした試みが幾度もあった事から、世紀を超えて長く関心が寄せられてきたのです。

 この未完成の物語は部分的にでしたが1980年に国書刊行会「世界幻想文学大系」『サラゴサ手稿』(工藤幸雄氏翻訳)で初めて日本で紹介されました。そして1990年代終わりごろより、(その少し前に出版された完全版だとされた本を元に)工藤氏によって完全な物語が完訳され、近く出版されるとされてきました……2023年現在に至るまで出版されていませんでしたが。

 しかしその間に、この『サラゴサ手稿』は2002年の新たな自筆原稿の発見で完全な姿に完成となったのです。それは2004年より海外で出版され、2022年9月・11月、翌年1月、岩波文庫より畑浩一郎氏翻訳のヤン・ポトツキ『サラゴサ手稿』完訳として上・中・下の3冊で刊行されたのです。

※こちらの上・中巻を手にしたちょうど1年前の去年11月末に、「岩波文庫版『サラゴサ手稿』完訳版で漸く見えてきた、これまで知られてこなかった長い研究の経過」という記事をまとめてました。

 

 

◆見失われたもうひとつの全訳『サラゴサ手稿』を求めて

 こうして完訳を手にした今、それではあの工藤氏(2008年没)の完訳はどこにいったのだろう? そんな疑問が先月(2023年10月)に不意に沸き上がりました。そこで『サラゴサ手稿』について先月辺りから調査を再開して地元の図書館で手にする事の出来る情報を集め始めたのです。

 ただ、それらを元にこれから書きますのは、寄り関心を持っていた方なら多分2004年ぐらいに、国内出版物から辿れば岩波文庫版の中巻が刊行された去年の今頃には既に調べることが可能だった(すでに調べがついているはずの)内容が中心になるかと思います。特に自分の場合、工藤幸雄氏が亡くなられる2008年までのインタビュー記事や回顧録(読めているのは1冊のみ)について、この度、国立国会図書館のデータベースや地元図書館での検索などで今更になって存在を知ったという体たらく、かなり出遅れてしまった有様ですので。

 今回、これまでに刊行された国書刊行会と岩波文庫のふたつの『サラゴサ手稿』にある解説での情報を元に、これまでに出版などされた『サラゴサ手稿』のバリエーションを整理しつつ、長らく幻となっている全六十六日の全訳『サラゴサ手稿』についてまとめてみたいと思います。

※以下にテキスト表題と収録書籍を挙げます。(色で引用テキストを見分けるようにしてます)

「ポトツキ論」:
国書刊行会「世界幻想文学大系」『サラゴサ手稿』(工藤幸雄氏翻訳 1980年)の巻末に収録

他、工藤幸雄氏の記述も

「『サラゴサ手稿』来歴」:
岩波文庫『サラゴサ手稿』(畑浩一郎氏翻訳 2022年)中巻「訳者解説2」のこと

 

 

◆六十一日 2002年/2022年

 2022年から翌年にかけて、岩波文庫より畑浩一郎氏翻訳のヤン・ポトツキ『サラゴサ手稿』完訳が全3巻で刊行されました。
 この完訳は2004年から刊行された完全版を底本にされてます。それは先立つ2002年にあった『サラゴサ手稿』研究での重要な発見などの成果から完全な姿に再現されたものです。

 2002年、“ポーランドのポズナニの古文書館で調査を行っていたフランソワ・ロゼ(ローザンヌ大学教授)とドミニク・トリエール(モンペリエ大学名誉教授)というふたりの研究家が新たなポトツキの自筆原稿を発見(上巻「訳者解説1」の略年譜)”しました。そしてそれらを調査する中で“ポズナニにあるポトツキ家の書庫でヤン(ポトツキ)の残した自筆原稿を精査(下巻「訳者解説3」P450)”して、新たな事実が判明したのです。

“(ポトツキには)製紙された年が漉入れされた特注の紙を使う習慣があった。~紙はその年のうちに無くなるか、あるいは遅くとも翌年には全てが使い切られている。そのおかげで、それぞれの草稿の執筆時期についてかなり正確に把握できる”(中巻「訳者解説2」)

 ふたりによる新たな研究の成果によって、これまで幾度も『サラゴサ手稿』の姿を求めながら不完全だったのは、“物語の整合性、一貫性に関する問題は、小説にはひとつの形しかないと考えるから生じるのであり、実は『サラゴサ手稿』には少なくともふたつの異なるバージョンが存在することが分かった”のです。

「一七九四年版」
“1791年頃から書き始められ遅くとも1794年には、小説の一部が完成を見ている”『サラゴサ手稿』の最初のバージョン。
“「1794年」と漉入れされた紙に書かれた第十九日から第三十三日までの自筆原稿が残”されるだけで“前半部分が未発見であるばかりでなく、完成度も低い”とされる。
“この(「一七九四年版」の)時点ですでに小説の基本的な設計は完成している”
“主要な登場人物はすでに全て揃っている”

「一八〇四年版」
“1804年から1808年にかけて、ポトツキは小説を改変する作業を行なう”
“第四デカメロン(第四十日目)までは順調に進むが、第五デカメロンの途中、第四十五日で突如、筆が止まる。そしてそのまま先は続けられずにこのバージョンは打ち捨てられてしまう”
 未完ではあるが、ベルギーの書店から刊行された『ポトツキ全集』(2004~06年 全5巻)に収録され、2008年にはフランスのガルニエ・フラマリオン社より刊行の『サラゴサ手稿』より2分冊の一つとして刊行される。

「一八一〇年版」
“1809年から1814年にかけて、あるいはポトツキの死の直前である1815年にいたるまで、小説には絶えず改変さが施される”
“先行する一七九四年版、一八〇四年版では大きな位置を占めていた「さまよえるユダヤ人の物語」が、一八一〇年版では完全に削除されている”
“作品内に張りめぐらされていた数々の伏線が回収され、第六十一日において物語は遂に大団円を迎えている”
「一八〇四年版」と同じく『ポトツキ全集』に収録され、2008年刊行の2分冊の一つとして刊行される。
2022年刊行の岩波文庫『サラゴサ手稿』の底本

 この完訳の登場により、1980年の国書刊行会「世界幻想文学大系」『サラゴサ手稿』の「ポトツキ論」で述べられ国内で広まっていた「六十六日間」ではなく「六十一日間」が物語の全てとされたのです。

 

 

◆十四日 1958年/1980年

 先の自分の記事では、もうひとつの先行した翻訳の書籍についても触れてました。それが1980年刊行の工藤幸雄氏翻訳による国書刊行会「世界幻想文学大系」収録の『サラゴサ手稿』です。岩波文庫から完訳が刊行されるまで、この『サラゴサ手稿』が知られていたものとなります。
 こちらはフランス語版「カイヨワ版」(1958年出版 NRF版とも)を底本として、ポトツキ自身が書いたと判明している「十四日目」までを翻訳し収録した内容となってます。

 工藤氏の『サラゴサ手稿』巻末にある「ポトツキ論」では、その時点で判明していたこの作品の来歴などがまとめられてます。
 その中で「カイヨワ版」の全容について、“十四日までを収録した前半(198ページ分)”“『アバドロ、イスパニア物語』としてジプシー酋長の話だけをむりにまとめた後半(120ページ分)”と説明されてます。そのうち、工藤氏の『サラゴサ手稿』では前半を訳し、後半は省かれてあります。
 後半が省かれた理由は、ポトツキ研究の泰斗=泰山北斗=その道の大家である在英亡命ポーランド人のレシェク・ククルスキ教授(Kukulski, Leszek 1930-1982)の考証により“「発行者の手が入りすぎており、きわめて信に置きがたい」”と指摘されていたからです。

 なお、「カイヨワ版」自体の底本は、ポトツキ在命中の1813年と1814年にパリのジッド書店から刊行された「パリ版」と呼ばれるふたつの物語でした。十四日目までを収録した「カイヨワ版」の前半は1814年刊行の『アルフォンスの十日物語』と、後半の『アバドロ、イスパニア物語』は1813年発行の『アバドロ』と。「カイヨワ版」は二冊の「パリ版」と“それぞれほぼ合致している(P322)”と「ポトツキ論」は記されてます。

 更に「カイヨワ版」と「パリ版」については、工藤氏のこの『サラゴサ手稿』に付録された「世界幻想文学大系」の「月報28」に寄せられた篠田知和基氏の「『サラゴサ手稿』の幻想」で次のように紹介・評価されてました。
“カイヨワが底本としたものは頭文字だけの作者名による『アルフォンス・フォン・ヴォルデンの生涯の十日間』(1814年)という作品であり、これと、その続編である『アバドロの物語』から拾いだした数章をまぜあわせ、その両篇のポーランド語訳の総題と作者名とをとって、あたかも幻の幻想文学の代表作のようにして紹介したもの”

※後に説明する二冊の「パリ版」については、翻訳者などにより、微妙に名称が異なります。

 


◆十日 1804年/1812年

 では「カイヨワ版」前半の「十四日間」部分がどうしてポトツキ自身の原稿が基になっていると判明しているのかについて、一応確認のため記します。

「ポトツキ論」P320によると最初の『サラゴサ手稿』は、「十日目」までが1804年末に、続く三日分(三日目の途中までで中断)が1805年初めに、『サラゴサにて発見された手稿』としてペテルブルグにあったポトツキの自家用印刷所で秘密出版されました。ただし、十三日目の途中で文章が中断されたとあるように未完全な形で。これら「十三日間」が最初のポトツキ自身の原稿によるものでした。

 続いて出版された二冊の「パリ版」については畑浩一郎氏完訳『サラゴサ手稿』の中巻「訳者解説2 『サラゴサ手稿』来歴」に詳しく書かれてます。1812年にポトツキはパリのジッド書店に「第四デカメロン(第四十日目)」までの書かれた未完成の原稿を送っていたのですが、同年のナポレオンのロシア遠征の影響で残る原稿が届かなかった事から、書店の店主により“おそらくポトツキの承諾を取らぬまま、手元の原稿をふたつに分割し、改変を加えた上で刊行に踏み切”られたのです。それが「パリ版」と呼ばれる1813年発行の『アバドロ、スペインの物語』と1814年発行の『アルフォンス・フォン・ウォルデンの十日間の経験』だったのです。

 特に『アバドロの物語(パリ版)』については工藤氏の「ポトツキ論」の中で、「カイヨワ版」における後半部分と“ほぼ合致している”とされ、その「カイヨワ版」の後半部分についても先に示されてる通り、ククルスキ教授により改変が入っていると指摘されたことから、ポトツキ自身の原稿による作品からは省かれたわけです。
 一方の『アルフォンス・フォン・ヴォルデンの十日間の経験(パリ版)』の部分については、ポトツキ自身が秘密出版した最初の「十三日間」の『サラゴサ手稿』の存在によって、大きな改変が入らなかったのだと思われます。だから、その「パリ版」と“ほぼ合致している”とみなされた「カイヨワ版」前半部分が、ポトツキの原稿とも“ほぼ合致している”とされ、工藤氏が翻訳する対象となったのでしょう。


※以前はこの1804年の秘密出版のものが最初期とされてますが、2002年の新発見で原稿のままで出版に至っていない最初期バージョンの「一七九四年版」という原稿の存在が明らかとなってます。

 

 

◆十四日 1958年/1980年

「十日間」に続く三日分についても、1805年の秘密出版で作者自ら発行していたことから、少なくとも「十三日目」まではポトツキ直筆の原稿だと検証できたのだと思われます。

※ただし、「第十四日目」の部分がどうやって証明されたかについては、検証するすべがないので不明となります。そもそも、『アルフォンス・フォン・ウォルデンの十日間の経験』などと称されているのに「十四日間」の話が収められている理由さえも伺い知ることが叶いません。

 ともかく、この「カイヨワ版」を底本に工藤氏によって『サラゴサ手稿』が日本語で初めて翻訳されたわけですが。しかしこの「カイヨワ版」について、2022年刊行「岩波版」中巻の「訳者解説2 『サラゴサ手稿』来歴」では次のように問題点を指摘されてます。
大きな反響を呼び、『サラゴサ手稿』の文学的価値を決定づけることになる。その反面、この版が小説の評価・分類をミスリードしたというマイナス面も無視できない”
“カイヨワによって公開された箇所は、小説の中でもとりわけ幻想的な演出が施されている部分であり、(中略)フランス語で書かれた幻想小説の先駆と見なされてしまうのである”

 実際、『幻想文学論序説』(1970年ツヴェタン・トドロフ著 三好郁朗訳 1999年創元ライブラリ収録)でも幻想文学の事例として何度となく取り上げられ、工藤氏の翻訳版が日本国内唯一の刊行となった事から、2022年からの完訳版刊行まで国内でも幻想文学作品として広く認識されてきました。

※ちなみに「訳者解説2 『サラゴサ手稿』来歴」では「カイヨワ版」について、“あくまでポトツキの筆になることが分かっている箇所のみ、すなわち冒頭から第十四日目までを公開した”と解説しているものの、1980年」の「ポトツキ論」で触れられている後半部分の『アバドロ物語』については触れられてません。

 

 

◆六十六日 1980年/1999年/1997年/2001年/2004年

 1980年刊行の「世界幻想文学大系」収録の『サラゴサ手稿』の巻末の「ポトツキ論」P318で“六十六日の物語は、まだいちども原作のフランス語では出版されぬままであり、筆稿の一部が失われた今では、もはやそれは望めない”と工藤氏は記してました。そして“全体が出版されているのはエドムント・ホイェツキによるポーランド訳(1847年ライプツィヒ版、1950年・56・65年ワルシャワ版)のみである”とも述べられてました。

 しかし1999年、創元ライブラリで刊行される形で改訳出版された『幻想文学論序説』(1970年ツヴェタン・トドロフ著 1975年翻訳のものを改訳)の三好郁朗氏が「訳者あとがき」の中で次のように記されていたのです。

ところで、本書(※『幻想文学論序説』)が幻想文学の典型的作品にあげていおるポトツキの『サラゴサ手稿』が、同じこの創元ライブラリに収められることになった。このたびの新訳(工藤幸雄訳)は、物語の六十六日まで、すべてを含む完全版と聞く。幻想文学を愛する者にとり、楽しみがひとつ増えることになる”(P260)

 おおよそこの紹介が以降、待望され続ける事となる、工藤幸雄氏による「全六十六日間」の完訳『サラゴサ手稿』の噂の始まりだと思われて……ましたが、長らく失念していたもう少し遡る完訳の噂が、というよりも訳者本人からの紹介(予告)があったのです。

 1997年に刊行された『幻想文学1500ブックガイド』(「幻想文学」編集部/石堂藍/東雅夫 編)にある、工藤幸雄氏による「私撰東欧幻想文学10篇」で次のように予告されていたのでした(なお、10選というお題目なのに『サラゴサ手稿』1篇しか挙げられてないのは熱意というかご愛敬ですね)。

“昨年完成した翻訳原稿は出版社のデスクに空しく寝ている。たぶん、来年には出るだろう。今回の版元は東京創元社である”

 この本は大学時代に大学図書館で読んでいたと思うのですが、その頃はまだ、同じく工藤氏の『サラゴサ手稿』も大学で借りてコピー印刷したものを手元に置いた(その後に神田の古書店で本書を見つけて購入)程度の関心だったからか、この予告をあまり認識していなかったようです。

 また「私撰東欧幻想文学10篇」の中で工藤氏は、“六十六日の物語のフランス語版の上梓は作者の死後百七十四年、一九八九年である。方々に散らばる書写原稿をまとめあげたラドリザ教授はヤンを(略)と称える”と、完訳の底本について述べられてます。

 この底本とは、畑浩一郎氏の「訳者解説2」で挙げられているジョゼ・コルティ書店から1989年に刊行された「コルティ版」の事です。
 
 今回、改めて『サラゴサ手稿』に関する資料を集める中で、かなり具体的に工藤氏の完訳原稿の行方も分かりました。
 2012年に国書刊行会より刊行された『幻想文学講義 「幻想文学」インタビュー集成』(東雅夫氏 編)に収録された、工藤幸雄氏への2001年7月4日のインタビュー、「『サラゴサ手稿』讃」です。
 それによると、“東京創元社の担当編集者であるIさん(※インタビュー中では実名の苗字)”が原稿を受け取っていたというのです。“Iさんが慎重なうえに、フランス語の出来る方だものだから、ちゃんと読んでくれている。そのチェックで思ったよりも時間がかかったんです”と、校正作業?が進行していた事が明らかとなりました。それがどの程度進行してたかは不明ですが、その頃については空しく眠っていたわけではなかったようなのです。

 また、2004年12月に中公新書より刊行された工藤幸雄氏の回想録『ぼくの翻訳人生』の「はじめに」の中でも次のように『サラゴサ手稿』の完訳について触れられていました。

“今二十一世紀に入って最初の役所がフランス語による怪異物語、ヤン・ポトツキ『サラゴサ手稿』の完本(版元、東京創元社訳稿完成、出版時期未定)、続いてヴィトカツィの奇妙な小説『非充足』(版元、出版時期未定)となる。すべて異色の文学だ”

 今回の調べ事で辿った上で、この2004年が『サラゴサ手稿』完訳に触れた最後となります。ただし、もしかしたらその後に出された別の回想録でも触れているかもしれません。
 そして2008年に工藤幸雄氏は亡くなられました。工藤氏はロシア語・ポーランド語に通じていて、『サラゴサ手稿』『ハザール事典』の他、映画『カティンの森』の原作の翻訳や、『ポーランドを生きる ヤルゼルスキ回想録』の翻訳など手掛けられてました。『ぼくの翻訳人生』では、ポーランドなどでの暮らしぶりとか、日本から欧州への船上で『サラゴサ手稿』(カイヨワ版)を翻訳したなど様々なエピソードが記されてました(地元の図書館に収蔵されてましたので限られた時間で目を通してました)。

「全六十六日」の完訳原稿の消息は2001年までは具体的に編集部で原稿チェックされていたらしい事が分かりましたが、2004年においても刊行時期が未定でした。

 2004年といえば、同じ頃にベルギーの書店より『ポトツキ全集』(2004~06年 全5巻)の刊行が始まった年です。そう、その前の2002年に『サラゴサ手稿』研究の最前線・欧州では、ポズナニで新たなポトツキの自筆原稿が発見され、複数のバージョンがある事が判明していたのです。
 この出来事と「全六十六日」の完訳原稿の消息は時期的に見て関連している可能性がありますが、今の所、工藤氏がその欧州での新発見の報に接したかどうかも、『ポトツキ全集』を手にしたかどうかも分かりません。

 


◆六十六日 1847年

 では、工藤氏が完訳の際に底本とした「コルティ版」とはどのようなものでしょうか。

 その前に、先に「ポトツキ論」の中で工藤氏が触れてました“全体が出版されているのはエドムント・ホイェツキによるポーランド訳(1847年ライプツィヒ版)”について、もう少し説明を加えます。

 岩波文庫の「訳者解説2 『サラゴサ手稿』来歴」では「エドムント・ホイェツキ」について、“(ライプツィヒでポーランド語訳が刊行された1847年の)二年前からパリに亡命中のポーランド人”だと伝えます。
 その頃のポーランドは19世紀ウィーン体制でロシア帝国皇帝が王位を兼ねていたポーランド立憲王国となっていたものの、ロシアによる専制的支配に対して民族蜂起を繰り返しても鎮圧されたことから大量の亡命者を出していた。時期的に見てそのひとりだと思われます。
 そして1847年の「ライプツィヒ版」について、“『サラゴサ手稿』の全体像はこのポーランド語訳によって初めて明らかになる”と取り上げつつも、“改竄の上にかろうじて成り立っている”と幾つもの大きな問題を挙げられてました。

“複数の草稿を突き合わせてもなお埋まらぬ空隙、筋立てに残る矛盾を克服するために、彼は作品を改変することを厭わないのである。物語の順番は入れ替えられ、新たなエピソードや登場人物が考案され、少なからぬ文章が削除される”

 こうしたかなり強引な形でしか全体像がつかめなかった訳について、「訳者解説2」では次のように記されてます。
(東西ヨーロッパの)各地に残された資料を寄せ集め、執筆年代も完成の度合いもまちまちな原稿を突き合わせて、物語の筋が一貫すべく小説の全貌を明らかにしていく作業がいかに困難を極めるかは容易に想像できる”と。

 工藤氏が全体像が明らかとなった「ライプツィヒ版」を邦訳の底本に選ばなかった理由は、原著のフランス語で書かれたものではなくポーランド語訳だった事の他に、この改竄の問題もあったのかもしれません。そもそも工藤氏が最初に訳した『サラゴサ手稿』の底本だった「カイヨワ版」でさえ、ポトツキの原稿に手が加えられたとされる後半は採用しなかったのですから。

 ただ、この「ライプツィヒ版」について、改竄はありましたがそれはまた同時に、寄せ集めた資料を突き詰め再構築するという作業をされていた事から、先のジッド書店が出した「パリ版」における発行者による改変の入った『アバドロ スペインの物語』とは違ったアプローチを試みようとした痕跡と見る事も出来ます。
 元にしたポトツキの原稿について「ポトツキ論」も「訳者解説2」もより深く掘り下げられてませんが、ホイェツキがパリで亡命生活を送っていたのですから、1812年にポトツキがジッド書店に送った「第四デカメロン(第四十日目)」までの未完成の原稿をその書店から借り受けていたのかもしれません。


※ポーランドの文化・国家遺産省の文化振興基金(国の特別目的基金)の資金提供を受けて作成されている「Free Readings Library」ウェブサイトで公開されている「ライプツィヒ版」の解説では、(以下自動翻訳)
“チョイェツキの翻訳の基となったフランス語の原文は失われており、彼の論文には翻訳作業の痕跡が残っていないため、翻訳を行ったのは25歳のエドマンド・チョイェッキ(同時期に他の多くの研究や編集作業に携わっていた)ではなく、彼が名前を貸しただけで、実際の翻訳者は匿名のままであると推測できます。この仮説は、2016年にWydawnictwo Literackie社から出版された、フランスの学者による綿密な復元に基づくサラゴサ写本の新しいポーランド語翻訳の著者であるアンナ・ワシレフスカによって提唱されました”
(アンナ・ワシレフスカ(Anna Wasilewska) 新ポーランド語訳版で2016年にグディニャ文学賞を受賞)
というより最新の研究が記されてます。

 

 

◆六十六日 1989年

 1989年に刊行された「コルティ版」とは、ラドリザ教授(René Radrizzani 「訳者解説2」の中では記述なし)が編集してジョゼ・コルティ書店から刊行された、初めてフランス語で書かれた『サラゴサ手稿』の全体像です。

 しかしその編集に当たって、「訳者解説2」によると“かつてホイェツキが直面したのと同じ問題にぶつか”ったのです。“物語の欠落箇所が残る”という問題です。工藤氏が「ポトツキ論」のP318で“六十六日の物語は、まだいちども原作のフランス語では出版されぬままであり、筆稿の一部が失われた今では、もはやそれは望めない”と指摘されていた問題が絡んでいたのでした。

「コルティ版」では、その欠落箇所をホイェツキの「ライプツィヒ版」“を参照し、それをフランス語に翻訳する形で補う(「訳者解説2」)”事で全体像を再現されていたのです。

 1989年の「コルティ版」刊行から7年ほどを経た1996年頃に、工藤氏はこの六十六日間の物語からなる『サラゴサ手稿』を完訳されたとされます。しかし、2002年以降の最新研究でポトツキの原稿が整理された事で、「ライプツィヒ版」「コルティ版」それぞれの問題点がようやく解消され、漸く完全な姿を得たのです。

 


◆六十六日、もう一つの試み 1956年/1965年

 工藤氏の完訳『サラゴサ手稿』原稿の他にも、工藤氏が知るもうひとつの「六十六日間の物語」の完本の試みが実は存在していました。
 それが工藤氏の「ポトツキ論」P303の別記で触れられてる“ポトツキ研究の泰斗”在英亡命ポーランド人のレシェク・ククルスキ教授(Kukulski, Leszek 1930-1982)が悲願”とした“フランス語の手稿のうちの欠落部分を、ポーランド訳から再生して、フランス語によって六十六日間の物語の完本”という試みです。ククルスキ教授は1847年のエドムント・ホイェツキの「ライプツィヒ版」を編集し直し監修した「ワルシャワ版」(1956年・65年)を著してましたが、大学図書館の本を探せるCiNiiで検索した限りでは、その2冊以外の『サラゴサ手稿』研究は出されてなかった、悲願は果たされなかったようです。

 工藤氏の「ポトツキ論」では、氏の最初の『サラゴサ手稿』翻訳の際に“同教授監修のポーランド語版を参照し、その詳細適切な注釈を大いに活用させていただいた”と触れられてます。

 

 

◆見失われたもうひとつの全訳『サラゴサ手稿』の痕跡

 この度の「見失われたもうひとつの全訳『サラゴサ手稿』を求めて」に着手した最初の日(今この文章を書いている日から1週間前)に、参考となる資料をネット検索などで調べている際にある物語の存在を知りました。
 それは河出書店が出版されていた『東欧怪談集』(沼野充義 編 1995年出版 2020年新装版刊行)に収録された次の物語です。

『サラゴサ手稿』第五十三日 トラルバの騎士分団長の物語 工藤幸雄氏訳

 これは岩波文庫『サラゴサ手稿』(畑浩一郎氏翻訳)の中では、中巻の「第三十七日目」にてジプシーの族長が語る「神に見捨てられた巡礼者、エルバスの物語」の中で登場する人物が語る物語にあたります。
 工藤氏が訳していたこの物語の存在が何よりも重要なのは、これまで国書刊行会「世界幻想文学大系」『サラゴサ手稿』の「第十四日目」までしか読むことの出来なかったとされていたその先の物語の一部が、1995年には既にこの世に出ていた事、全訳されていた痕跡が存在していた事です。

 


◆見失われたもうひとつの全訳『サラゴサ手稿』を求めて……2023年

 その物語の一部が既に出版されていたものの、2022年の新たな研究に基づいた「全六十一日間」完訳の刊行後も、2023年現在も、工藤氏による完訳については音沙汰がありません。しかし……この一報は本当でしょうか!?

20230107 新年早々うれしいニュース(翻訳家・垂野創一郎氏:プヒプヒ日記より)
“新年早々、うれしいニュースが流れてきた。あの伝説の彼方に消えたと思われた工藤幸雄訳『サラゴサ手稿』がついに出版されるという(情報ソースは昨年末の「読んでいいとも年末特別篇」での東京創元社の発表)。”

 去年年末にイベントか何かでそのような発表があったの!? タイミング的に岩波文庫からの完訳刊行を受けての反応でしょうか? しかし、11月時点でも実際に刊行の予定などは挙がってないので……。

 

(2023年11月16日17:45)

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2023年9月21日 (木)

『このライトノベルがすごい!2024』に投票してきました。

『このライトノベルがすごい!2024』に投票してきました。


※今回は作品へのコメントを頑張って書いてみました。とは言え、特に読んで間を空けてしまうと思い出すのが大変です。読書メーターで投稿してた感想などにも頼りました。

『このライトノベルがすごい!2024』での対象ライトノベルは「発売日:2022年9月1日~2023年8月31日」の期間に刊行された作品となります。

※『このラノ2024』では5作品を選ばないといけません。
 とは言え、この1年で刊行されたラノベは膨大ですし、自分が読んだラノベも結構な冊数となってます。

(参照)ライトノベル文庫でミステリー物はどれぐらい出てるんだろう?(19年12月~23年8月)

 ですので今回、5作品に絞り込むにあたって、個人的に次の条件を立てました。

(一)この1年ぐらいの新作であること 対象期間より少し前ぐらいから始まった作品という基準

(二)実績や評判が既に伴っている(続巻を4冊以上)か他の方からも支持を得られていそうな作品よりも、この1年の新規作品を優先

 以上の条件で候補から止むを得ず外す事になった作品について予め触れておきます。

『死亡遊戯で飯を食う』(MF文庫J)は趣向を凝らした女の子だらけの連続デスゲームを駆け引き交えつつ追体験する作品で22年11月刊行開始から1年も経たないうちに4巻も出てる急成長株だと思うので、結構他の方々からの支持を集めてるのかなと。

『ユア・フォルマ』(電撃文庫)は今春から読み始めて最新刊に追いついた所。ラノベでは珍しい近未来SFで刑事物ですが、こちらもアニメ化が決まるくらい人気を得てるはずです。数年遅れでやっと注目したので迷いましたが、去年のこのラノ応募期間直後に読んで早く読めばと後悔した去年7月と9月に連続刊行した新規の近未来SF刑事物『アマルガムハウンド』を今回推すことに。


※ここからは投票内容を記します。(敬称略)


●女性キャラクター3人
(1)獄門撫子 獄門撫子此処二在リ
(2)冷堂紅葉 不死探偵 冷堂紅葉
(3)笹葉更紗 僕らは『読み』を間違える

●男性キャラクター3人
(1)天内晴麻 不死探偵 冷堂紅葉
(2)テオ・スターリング アマルガム・ハウンド
(3)阿ノ玖多羅皆無 腕を失くした璃々栖

●イラストレーター 3人
(1)ぽりごん。 僕らは『読み』を間違える
(2)尾崎ドミノ アマルガム・ハウンド
(3)おしおしお 獄門撫子此処二在リ


●作品・シリーズ 5作品

(1)獄門撫子此処二在リ  伏見七尾/おしおしお 小学館ガガガ文庫
現代ものの伝奇的な雰囲気や苛烈さは、その発表の際に予感してましたが、想像や期待していた以上に苛烈鮮烈奇想天外で怒涛で、半分読んだ辺りでこれはもう「新たなる新伝奇が来た」と確信してました。京都が舞台の魑魅魍魎絡みばもはや元ネタ出尽くしてると思い込んでたけど、創作的な未知の怪異が躍り出てきたりヒロインの家系も絡みついたりしてて、完全に杞憂。そして特筆は相棒の謎の美女、無花果アマナですね。楽しそうに会話を交わしながらも中々正体不明で関係の波にハラハラですよ。その謎も含め様々な仕掛けがある本作は、伝奇的なラノベを渇望する読者に是非とお勧めしたい。それから更なる怪異巡りも期待したいです。

(2)不死探偵・冷堂紅葉 01.君とのキスは密室で  零雫/美和野らぐ GA文庫
主人公の少年とヒロインが体育倉庫で起きた密室殺人事件を捜査し推理する過程が慎重かつ丁寧で学園探偵ものとして楽しめました。更に驚きなのは、連続したもう一つの密室殺人事件。ヒロインが殺された事件の真相とそのヒロインが不老不死だという事、そして主人公の持つ異能が、結果として事件そのものを無かったことにしたのです。更にはそういったちゃぶ台返しが有るにもかかわらず、その件を含めてアンフェアと感じない推理ものとなってた事でしょう。

(3)僕らは『読み』を間違える  水鏡月聖/ぽりごん。 角川スニーカー文庫
登場人物それぞれの読書と感想が心の内面として読者に告白されるけれども、作中の自分も相手や周りもその内面に気付かれず、だから誰からもまだ理解も出来ない。だから互いに「読み」間違えてしまうんだと。そうわかると、読み手の中に切なくほろ苦い青春群像劇が姿を現してくるのです。

(4)アマルガム・ハウンド2 捜査局刑事部特捜班  駒居未鳥/尾崎ドミノ 電撃文庫
戦火で非業の死を遂げた妹という傷とアマルガムへの嫌悪を抱えるテオと人型アマルガムのイレブン、そのアンバランスな関係が凶悪事件の捜査を進めるうちに次第に互いを知ろうとし、終盤の異形が支配する凶悪事件では互いに庇おうとする様に変化していくのも心地よかった。

(5)腕を失くした璃々栖 ~明治悪魔祓師異譚~  明治サブ/くろぎり 角川スニーカー文庫
悪鬼悪霊悪魔と交わり術で争い生きる世界観、そしてゴシックホラーと近代化した明治の雰囲気とが融合したようなやや重々しい古めかしい雰囲気の文体も含めて確固とした世界観が描かれてました。


※今回の傾向としては、読んでいるジャンルも偏ってますので(苦笑)ライトノベルでミステリっぽい作品を中心に選んでみてます。

「ライトノベル文庫でミステリー物はどれぐらい出てるんだろう?(19年12月~23年8月)」記事のリストより、この一年期間(22年9月~23年8月)のミステリっぽいラノベの刊行数が42冊と、前年度期間(19冊)から倍増していることからも、個人的には「ミステリ系」ラノベは今回の注目ジャンルになるんじゃないかなと期待してます……。

(2023年 9月21日 14:27)

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2023年8月25日 (金)

ライトノベル文庫でミステリー物はどれぐらい出てるんだろう?(19年12月~23年12月暫定)

※流石に全体を網羅して調べるという情報収集力も統計力も気力も時間もなかったので、2019年12月から23年8月、暫定で23年10月までの範囲に絞って、「文庫のラノベ」で「ミステリ」ものか、あらすじなどから推測される作品をリストアップしてみました。(リストについては最後の方に) (11/23 23年12月刊行分まで追記 『薬屋のひとりごと』追記)

 

  ◆  ◆  ◆  ◆

 

<<だいたいのジャンル傾向>>

※まずは、だいたいどんな傾向のミステリ系ラノベが登場しているかについて、だいたいリスト化してみました。
 なお、読んだ作品については内容を記憶する限りでだいたい把握していますが、それ以外については繰り返しますがほんまにだいたいな分類です。

【推理 警察 警察ミステリー】
ユア・フォルマ
アマルガム・ハウンド 捜査局刑事部特捜班


【推理 職業探偵】
また殺されてしまったのですね、探偵様
霊能探偵・藤咲藤花は人の惨劇を嗤わない
名探偵は推理で殺す
お兄様は、怪物を愛せる探偵ですか?


【推理 学園が舞台の青春ミステリ―】
生徒会探偵キリカ
探偵くんと鋭い山田さん
シュレディンガーの猫探し
ナゾトキ女とモノカキ男
忘れえぬ魔女の物語
迷探偵の条件
明日の罪人と無人島の教室
呪われて、純愛。
僕らは『読み』を間違える
シャーロック+アカデミー
不死探偵・冷堂紅葉

 

【推理 (探偵以外の)専門職】
薬屋のひとりごと

 

【推理 素人】
マーディスト ―死刑囚・風見多鶴―
君はこの「悪【ボク】」をどう裁くのだろうか?
ミリは猫の瞳のなかに住んでいる
30ページでループする。そして君を死の運命から救う。


【推理 スパイ】
スパイ教室
パーフェクト・スパイ
スパイ≒アカデミー 真実を惑わす琥珀


【特殊設定ミステリー 伝奇 サスペンス】
シュレディンガーの猫探し
霊能探偵・藤咲藤花は人の惨劇を嗤わない
不可逆怪異をあなたと
お兄様は、怪物を愛せる探偵ですか?
魍魎探偵今宵も騙らず
獄門撫子此処二在リ


【特殊設定ミステリー 推理バトル 人狼】
探偵はもう、死んでいる。
スパイ教室
死亡遊戯で飯を食う。
名探偵は推理で殺す
シャーロット・ホームズは推理しない
超探偵事件簿 レインコード オレ様ちゃんはお嫁さん!?


【特殊設定ミステリー SF】
ユア・フォルマ
また殺されてしまったのですね、探偵様
アマルガム・ハウンド 捜査局刑事部特捜班
死亡遊戯で飯を食う。
EVE ―世界の終わりの青い花―


【特殊設定ミステリー ファンタジー 超自然】
シュレディンガーの猫探し
ナゾトキ女とモノカキ男
忘れえぬ魔女の物語
探偵はもう、死んでいる。
楽園殺し
また殺されてしまったのですね、探偵様
霊能探偵・藤咲藤花は人の惨劇を嗤わない
アマルガム・ハウンド 捜査局刑事部特捜班
SICK ―私のための怪物―
君はこの「悪【ボク】」をどう裁くのだろうか?
名探偵は推理で殺す
不可逆怪異をあなたと
ミリは猫の瞳のなかに住んでいる
お兄様は、怪物を愛せる探偵ですか?
30ページでループする。そして君を死の運命から救う。
不死探偵・冷堂紅葉
魍魎探偵今宵も騙らず
シャーロット・ホームズは推理しない
異世界転生事件録 人見知り令嬢はいかにして事件を解決したか?
超探偵事件簿 レインコード オレ様ちゃんはお嫁さん!?
獄門撫子此処二在リ

※【特殊設定ミステリー ファンタジー 超自然】に挙がるタイトルが一番大きなグループとなってる辺り、実にラノベらしい自由さが顕著ですね。
あと、【特殊設定ミステリー】の各グループに属さないタイトルは、おおよそ特殊能力・異能力に頼らない作品となるかなぁとか。ただ、更に舞台設定の特殊性を除くなら、個々に内容を確認するしかないかも。

 

  ◆  ◆  ◆  ◆

 

<<新規作品リスト>>

※次に、リストアップしたついでで、その年に出てる新シリーズ(第1巻)の作品をリストアップしてみました。こちらは2020年から。

(敬称略 お名前の順は「作者/イラストレーター」)

 

※[レーベル 冊数(新規作品数)] □自分が未読 ●既読


【2020年】
 4作品[富士見2 ガガガ1 MF1]

富士見ファンタジア文庫
□スパイ教室01 《花園》のリリィ  竹町/マリ
□ナゾトキ女とモノカキ男。 未来を写すカメラと人体消失 辻室翔/うなさか

ガガガ文庫
●シュレディンガーの猫探し 小林一星/左

MF文庫J
●探偵くんと鋭い山田さん 俺を挟んで両隣の双子姉妹が勝手に推理してくる  具堂/悠理なゆた

 

※[レーベル 新規作品数] □自分が未読 ●既読

【2021年】
 7作品
[電撃1 ガガガ2 MF2 スニーカー1 GA1]

電撃文庫
●ユア・フォルマ 電索官エチカと機械仕掛けの相棒 菊石まれほ/野崎つばた

ガガガ文庫
□楽園殺し 鏡のなかの少女 呂暇郁夫/ろるあ
●霊能探偵・藤咲藤花は人の惨劇を嗤わない 綾里けいし/生川

MF文庫J
●また殺されてしまったのですね、探偵様 てにをは/りいちゅ
●迷探偵の条件1 日向夏/magako

角川スニーカー文庫
□マーディスト ―死刑囚・風見多鶴― (上) 半田畔/灰染せんり

GA文庫
●忘れえぬ魔女の物語   宇佐楢春/かも仮面


※[レーベル 新規作品数] □自分が未読 ●既読

【2022年】
 11作品
[電撃5 富士見1 ガガガ1 MF1 スニーカー1 HJ1 講談社1]

電撃文庫
□明日の罪人と無人島の教室 周藤蓮/かやはら
●アマルガム・ハウンド 捜査局刑事部特捜班 駒居未鳥/尾崎ドミノ
●呪われて、純愛。 二丸修一/ハナモト
□君はこの「悪【ボク】」をどう裁くのだろうか? 二丸修一/champi
□パーフェクト・スパイ 芦屋六月/タジマ粒子

富士見ファンタジア文庫
●名探偵は推理で殺す 依頼.1 大罪人バトルロイヤルに潜入せよ 輝井永澄/マシマサキ

ガガガ文庫
□SICK ―私のための怪物― 澱介エイド/花澤明

MF文庫J
●死亡遊戯で飯を食う。  鵜飼有志/ねこめたる

角川スニーカー文庫
●腕を失くした璃々栖 ~明治悪魔祓師異譚~  明治サブ/くろぎり

HJ文庫
□EVE ―世界の終わりの青い花― 佐原一可/刀彼方

講談社ラノベ文庫
□十五の春と、十六夜の花 ―結びたくて結ばれない、ふたつの恋―  界達かたる 古弥月


※[レーベル 新規作品数] □自分が未読 ●既読

【2023年~11月~12月暫定】
 16作品
[電撃4 富士見3 ガガガ2 MF5 スニーカー2 GA1 オーバー1]

電撃文庫
●不可逆怪異をあなたと 床辻奇譚  古宮九時/二色こぺ
●ミリは猫の瞳のなかに住んでいる  四季大雅/一色
●30ページでループする。そして君を死の運命から救う。 秋傘水稀/日向あずり
□双子探偵ムツキの先廻り  ひたき 桑島黎音

富士見ファンタジア文庫
□スパイ≒アカデミー 真実を惑わす琥珀 1  武葉コウ/色塩
□超探偵事件簿 レインコード オレ様ちゃんはお嫁さん!? 1 篠宮 夕/おむたつ
魔術探偵・時崎狂三の事件簿 橘公司 つなこ

ガガガ文庫
お兄様は、怪物を愛せる探偵ですか?  ツカサ/千種みのり
獄門撫子此処二在リ  伏見七尾/おしおしお

MF文庫J
魔女の怪談は手をつないで 星見星子が語るゴーストシステム  サイトウケンジ ぷらこ
魍魎探偵今宵も騙らず  綾里けいし/モンブラン
シャーロック+アカデミー Logic.1 犯罪王の孫、名探偵を論破する  紙城境介/しらび
夏凪渚はまだ、女子高生でいたい。1 探偵はもう、死んでいる。Ordinary Case 月見秋水/はねこと
探偵に推理をさせないでください。最悪の場合、世界が滅びる可能性がございますので。  夜方宵 美和野らぐ

角川スニーカー文庫
□異世界転生事件録 人見知り令嬢はいかにして事件を解決したか? 1 鏑木ハルカ/フルーツパンチ
●誰が勇者を殺したか  駄犬/toi8

GA文庫
●不死探偵・冷堂紅葉 01.君とのキスは密室で  零雫/美和野らぐ

オーバーラップノベルス
□シャーロット・ホームズは推理しない ~人狼って推理するより、全員吊るした方が早くない?~ 中島リュウ/キッカイキ

  ◆  ◆  ◆  ◆


<<年ごとの刊行リスト>>

※最後に、2019年12月から23年11月、暫定で23年12月までのライトノベル文庫でミステリー物の作品をだいたい列挙したリストを掲載します。


※[レーベル 冊数(新規作品数)] □自分が未読 ●既読


【2019年】

12/18
●生徒会探偵キリカS1  杉井光/ぽんかん(8)
●天才美少女生徒会長が教える民主主義のぶっ壊し方 生徒会探偵キリカ 番外  天王寺狐徹/ぽんかん(8)

 

※[レーベル 冊数(新規作品数)] □自分が未読 ●既読

【2020年】
13冊[富士見5(2) ガガガ2(1) MF5(1) ヒーロー1(0)]

1/18 富士見ファンタジア文庫
□スパイ教室01 《花園》のリリィ  竹町/トマリ

1/24 MF文庫J
●探偵はもう、死んでいる。2  二語十/うみぼうず

2/28 ヒーロー文庫
□薬屋のひとりごと9 日向夏 しのとうこ

4/17 富士見ファンタジア文庫
スパイ教室02 《愛娘》のグレーテ  竹町/トマリ

5/25 MF文庫J
●探偵くんと鋭い山田さん 俺を挟んで両隣の双子姉妹が勝手に推理してくる  玩具堂/悠理なゆた

6/18 ガガガ文庫
●シュレディンガーの猫探し  小林一星/左

6/25 MF文庫J
●探偵はもう、死んでいる。3  二語十/うみぼうず

8/20 富士見ファンタジア文庫
□スパイ教室03 《忘我》のアネット  竹町/トマリ

10/24 MF文庫J
●探偵くんと鋭い山田さん2 俺を挟んで両隣の双子姉妹が勝手に推理してくる 玩具堂/悠理なゆた

11/25 MF文庫J
●探偵はもう、死んでいる。4  二語十/うみぼうず

12/18 ガガガ文庫
●シュレディンガーの猫探し2  小林一星/左

12/19 富士見ファンタジア文庫
□スパイ教室04 《夢語》のティア  竹町/トマリ
□ナゾトキ女とモノカキ男。 未来を写すカメラと人体消失 辻室翔/うなさか

 

※[レーベル 冊数(新規作品数)] □自分が未読 ●既読

【2021年】
 20冊
[電撃3(1) 富士見4(0) ガガガ4(2) MF4(1) スニーカー1(1) GA2(1) ヒーロー2(0)]

1/14 GA文庫
●忘れえぬ魔女の物語   宇佐楢春/かも仮面

1/29 ヒーロー文庫
□薬屋のひとりごと10 日向夏 しのとうこ

3/10 電撃文庫
ユア・フォルマ 電索官エチカと機械仕掛けの相棒 菊石まれほ/野崎つばた

3/19 富士見ファンタジア文庫
□スパイ教室 短編集01 花嫁ロワイヤル 竹町/トマリ

4/14 GA文庫
●忘れえぬ魔女の物語2  宇佐楢春/かも仮面

4/30 ヒーロー文庫
□薬屋のひとりごと11 日向夏 しのとうこ

5/20 富士見ファンタジア文庫
□スパイ教室05 《愚人》のエルナ   竹町/トマリ

5/25 MF文庫J
●探偵はもう、死んでいる。5  二語十/うみぼうず

6/10 電撃文庫
●ユア・フォルマ II 電索官エチカと女王の三つ子 菊石まれほ/野崎つばた

6/18 ガガガ文庫
楽園殺し 鏡のなかの少女  呂暇郁夫/ろるあ

7/21 ガガガ文庫
●シュレディンガーの猫探し3  小林一星/左

8/25 MF文庫J
●また殺されてしまったのですね、探偵様  てにをは/りいちゅ

9/18 富士見ファンタジア文庫
□スパイ教室06 《百鬼》のジビア  竹町/トマリ

9/18 ガガガ文庫
楽園殺し2 最後の弾丸  呂暇郁夫/ろるあ


10/25 MF文庫J
●迷探偵の条件1  日向夏/magako

11/10 電撃文庫
●ユア・フォルマ III 電索官エチカと群衆の見た夢  菊石まれほ/野崎つばた

11/18 ガガガ文庫
●霊能探偵・藤咲藤花は人の惨劇を嗤わない  綾里けいし/生川

11/25 MF文庫J
●探偵はもう、死んでいる。6  二語十/うみぼうず

12/18 富士見ファンタジア文庫
□スパイ教室 短編集02 私を愛したスパイ先生 竹町/トマリ


12/24 角川スニーカー文庫
□マーディスト ―死刑囚・風見多鶴― (上)  半田畔/灰染せんり

 

※[レーベル 冊数(新規作品数)] □自分が未読 ●既読

【2022年】
 28冊
[電撃10(5) 富士見4(1) ガガガ3(1) MF5(1) スニーカー3(2) HJ1(1) ヒーロー1(0) 講談社1(1)]

2/1 角川スニーカー文庫
マーディスト ―死刑囚・風見多鶴― (下)  半田畔/灰染せんり

2/25 MF文庫J
●また殺されてしまったのですね、探偵様2 てにをは/りいちゅ

3/19 富士見ファンタジア文庫
□スパイ教室07 《氷刃》のモニカ  竹町/トマリ

4/8 電撃文庫
●ユア・フォルマ IV 電索官エチカとペテルブルクの悪夢  菊石まれほ/野崎つばた

5/25 MF文庫J
●また殺されてしまったのですね、探偵様3  てにをは/りいちゅ

6/10 電撃文庫
□明日の罪人と無人島の教室  周藤蓮/かやはら

6/17 ガガガ文庫
●霊能探偵・藤咲藤花は人の惨劇を嗤わない2 綾里けいし/生川

7/8 電撃文庫
●アマルガム・ハウンド 捜査局刑事部特捜班 駒居未鳥/尾崎ドミノ

7/20 富士見ファンタジア文庫
□スパイ教室08 《草原》のサラ  竹町/トマリ

7/29 ヒーロー文庫
□薬屋のひとりごと12 日向夏 しのとうこ

8/18 ガガガ文庫
□SICK ―私のための怪物―  澱介エイド/花澤明

8/25 MF文庫J
●探偵はもう、死んでいる。7  二語十/うみぼうず

9/9 電撃文庫
●アマルガム・ハウンド2 捜査局刑事部特捜班  駒居未鳥/尾崎ドミノ

10/7 電撃文庫
●呪われて、純愛。  二丸修一/ハナモト
□明日の罪人と無人島の教室2  周藤蓮/かやはら

10/20 富士見ファンタジア文庫
□スパイ教室 短編集03 ハネムーン・レイカー  竹町/トマリ

10/25 MF文庫J
●また殺されてしまったのですね、探偵様4  てにをは/りいちゅ

11/1 HJ文庫
□EVE ―世界の終わりの青い花―  佐原一可/刀彼方

11/10 電撃文庫
●呪われて、純愛。2  二丸修一/ハナモト

11/25 MF文庫J
●死亡遊戯で飯を食う。  鵜飼有志/ねこめたる

12/01 角川スニーカー文庫
●腕を失くした璃々栖 ~明治悪魔祓師異譚~  明治サブ/くろぎり
●僕らは『読み』を間違える  水鏡月聖/ぽりごん。

12/9 電撃文庫
●ユア・フォルマ V 電索官エチカと閉ざされた研究都市  菊石まれほ/野崎つばた
□君はこの「悪【ボク】」をどう裁くのだろうか?  二丸修一/champi
□パーフェクト・スパイ  芦屋六月/タジマ粒子

12/20 ガガガ文庫
●霊能探偵・藤咲藤花は人の惨劇を嗤わない3 綾里けいし/生川

12/20 富士見ファンタジア文庫
●名探偵は推理で殺す 依頼.1 大罪人バトルロイヤルに潜入せよ 輝井永澄/マシマサキ

12/28 講談社ラノベ文庫
□十五の春と、十六夜の花 ―結びたくて結ばれない、ふたつの恋―  界達かたる 古弥月

 

※[レーベル 冊数(新規作品数)] □自分が未読 ●既読

【2023年~12月暫定】
 43冊
[電撃8(4) 富士見7(3) ガガガ6(2) MF13(5) スニーカー4(2) GA2(1) オーバー1(1) ヒーロー2(0)]

1/7 電撃文庫
●不可逆怪異をあなたと 床辻奇譚  古宮九時/二色こぺ

1/20 富士見ファンタジア文庫
□スパイ教室09  《我楽多》のアネット  竹町/トマリ

1/18 ガガガ文庫
□SICK 2 ―感染性アクアリウム―  澱介エイド/花澤明

1/25 MF文庫J
●死亡遊戯で飯を食う。2  鵜飼有志/ねこめたる
●探偵はもう、死んでいる。8  二語十/うみぼうず

2/1 角川スニーカー文庫
●僕らは『読み』を間違える2  水鏡月聖/ぽりごん。

2/25 ヒーロー文庫
□薬屋のひとりごと13 日向夏 しのとうこ

3/10 電撃文庫
●ミリは猫の瞳のなかに住んでいる  四季大雅/一色

3/17 ガガガ文庫
●お兄様は、怪物を愛せる探偵ですか?  ツカサ/千種みのり

3/17 富士見ファンタジア文庫
□スパイ教室 短編集04 NO TIME TO 退  竹町/トマリ

3/25 MF文庫J
□魔女の怪談は手をつないで 星見星子が語るゴーストシステム  サイトウケンジ ぷらこ

4/7 電撃文庫
●30ページでループする。そして君を死の運命から救う。 秋傘水稀/日向あずり

4/25 MF文庫J
●死亡遊戯で飯を食う。3  鵜飼有志/ねこめたる

5/25 MF文庫J
●探偵はもう、死んでいる。9  二語十/うみぼうず

6/01 角川スニーカー文庫
●腕を失くした璃々栖 弐 ~明治悪魔祓師異譚~  明治サブ/くろぎり


6/20 ガガガ文庫
●霊能探偵・藤咲藤花は人の惨劇を嗤わない(4)   綾里けいし/生川

6/23 MF文庫J
●シャーロック+アカデミー Logic.1 犯罪王の孫、名探偵を論破する  紙城境介/しらび

7/14 GA文庫

●不死探偵・冷堂紅葉 01.君とのキスは密室で  零雫/美和野らぐ

7/25 MF文庫J

□魍魎探偵今宵も騙らず  綾里けいし/モンブラン

7/20 富士見ファンタジア文庫

□スパイ教室(10) 《高天原》のサラ  竹町/トマリ

7/25 オーバーラップノベルス
□シャーロット・ホームズは推理しない ~人狼って推理するより、全員吊るした方が早くない?~ 中島リュウ/キッカイキ

8/01 角川スニーカー文庫
□異世界転生事件録 人見知り令嬢はいかにして事件を解決したか? 1 鏑木ハルカ

8/10 電撃文庫
□ユア・フォルマVI 電索官エチカと破滅の盟約 6 菊石まれほ

8/18 ガガガ文庫
●獄門撫子此処二在リ 伏見七尾 おしおしお

8/19 富士見ファンタジア文庫
□スパイ≒アカデミー 真実を惑わす琥珀 1 武葉コウ
□超探偵事件簿 レインコード オレ様ちゃんはお嫁さん!? 1 おむたつ

8/25 MF文庫J
□死亡遊戯で飯を食う。4 鵜飼有志
□夏凪渚はまだ、女子高生でいたい。1 探偵はもう、死んでいる。Ordinary Case 月見秋水
□シャーロック+アカデミー Logic.2 マクベス・ジャック・ジャック 紙城境介

9/8 電撃文庫
□ブギーポップは呪われる 上遠野浩平 緒方剛志

9/19 ガガガ文庫
□楽園殺し3 FES 呂暇郁夫 ろるあ

9/29 角川スニーカー文庫
●誰が勇者を殺したか  駄犬 toi8

9/29 ヒーロー文庫
□薬屋のひとりごと14 日向夏 しのとうこ

10/18 ガガガ文庫
□楽園殺し4 夜と星の林檎 呂暇郁夫 ろるあ

10/20 富士見ファンタジア文庫
□魔術探偵・時崎狂三の事件簿  橘公司 つなこ

10/25 MF文庫J
●探偵はもう、死んでいる。10  二語十 うみぼうず

11/10 電撃文庫
●ソードアート・オンライン IF 公式小説アンソロジー
  川原礫、時雨沢恵一、渡瀬草一郎、牧野圭祐、ほか 原作:川原礫 abec、黒星紅白、ぎん太、かれい、ほか

11/14 GA文庫
●不死探偵・冷堂紅葉 02.君に遺す『希望』  零雫 美和野らぐ

11/17 富士見ファンタジア文庫
□スパイ教室11 《付焼刃》のモニカ  竹町 トマリ

12/8 電撃文庫
□ソードアート・オンライン オルタナティブ
  ミステリ・ラビリンス 迷宮館の殺人  紺野天龍(原作:川原礫) 遠田志帆
□双子探偵ムツキの先廻り  ひたき 桑島黎音

12/25 MF文庫J
□探偵に推理をさせないでください。最悪の場合、世界が滅びる可能性がございますので。  夜方宵 美和野らぐ
□死亡遊戯で飯を食う。5  鵜飼有志 ねこめたる

 

  ◆  ◆  ◆  ◆

 

※このリストを作るきっかけは、7月か8月初めごろか、書店の新刊見てて(6月からなんか)ミステリっぽいラノベが次々出てない!? 読むのが追い付けない! って思った事からでした……えっと、現時点で既にいくつか手が回ってなかったり積み上げてたりしてますorz

 実際にここ数年調べてみて、刊行数も20年の12冊が今年(23年)は12月暫定集計で43冊と3倍以上、完全新作も20年の4冊から16冊にまで増えてます(23年11月23日更新)。
 冊数については『スパイ教室』シリーズや『探偵はもう、死んでいる』シリーズが巻数を重ねていますし、完結した『霊能探偵・藤咲藤花は人の惨劇を嗤わない』(全4巻)、『ユア・フォルマ』(現6巻)、『死亡遊戯で飯を食う』(現4巻)、続きが暫く出てませんが『また殺されてしまったのですね、探偵様』(現4巻)など出てます。最近でしたら、23年から始まった『不死探偵・冷堂紅葉』『シャーロック+アカデミー』が早々に続巻刊行を決めてます。調べ始める前に思ってた以上にたくさん出ているなって実感してます。


※最後に、個人的にお勧めなタイトルを。

ガガガ文庫『シュレディンガーの猫探し』  小林一星/左
GA文庫『忘れえぬ魔女の物語』  宇佐楢春/かも仮面
電撃文庫『アマルガム・ハウンド 捜査局刑事部特捜班』  駒居未鳥/尾崎ドミノ
MF文庫J『また殺されてしまったのですね、探偵様』  てにをは/りいちゅ
角川スニーカー文庫『僕らは『読み』を間違える』  水鏡月聖/ぽりごん。
ガガガ文庫『お兄様は、怪物を愛せる探偵ですか?』  ツカサ/千種みのり
角川スニーカー文庫『腕を失くした璃々栖』  明治サブ/くろぎり
GA文庫  『不死探偵・冷堂紅葉』  零雫/美和野らぐ
ガガガ文庫『獄門撫子此処二在リ』  伏見七尾/おしおしお
電撃文庫 『ユア・フォルマ』  菊石まれほ/野崎つばた

(2023年 8月25日 16:48)

(2023年 11月23日 18:30 23年12月刊行分までリスト追記 『薬屋のひとりごと』など追記)

(2023年 11月23日 22:50 東大新月お茶の会さんの【note連載版】ライトノベル回顧2023 からの情報を追記)


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2023年6月26日 (月)

広島が舞台の「ご当地ラノベ」(2023年6月暫定版)

※先日に、よっちさんの「47都道府県が舞台のラノベ」関連ツィートにて地方が舞台のラノベが話題に挙がってて、地元広島が舞台なのに初めてその存在を知ったタイトルが挙がってました。

 その流れで、改めて広島が舞台のラノベを挙げてみようとツイートしましたが、一応記事でまとめた方がいいかなって事で、こちらで書き改めてみました。


※調べ尽くしているわけではないので、未完の暫定記事な感じです。

『ガンパレード・オーケストラ』(電撃文庫・榊涼介さん) 2006年
※PS『高機動幻想ガンパレード・マーチ』の続編にあたるPS2ゲーム3部作より、中国地方が舞台となる「緑の章」のノベライズですね。


『ヤクザガールズ・ミサイルハート』(竹書房ゼータ文庫→星海社文庫 元長柾木さん) 2006年
※投下されようとした新型爆弾がその爆撃機ごと異境(ファーサイド)の力で時を止められ上空で球体に固定化され……。うやむやなままに世界大戦が休戦しているという冷戦に近い情勢の1989年、国際会議が開催されることとなった軍都・広島が舞台に、異能の力を持つヤクザ同士の抗争が起きるというSF極道活劇。かつての広島が描かれてますし、猿猴(えんこう)という怪異の名前なんかは広島市内だと広島駅そばの街とか路面電車電停や川と橋にあるから馴染み深いです。


『この恋と、その未来。』(ファミ通文庫・森橋ビンゴさん) 2014年
※冬の広電の胡町電停と京都市電路面電車が表紙の巻では広島三越の辺りが登場したり、広島の洋菓子とケーキのお店BOSTONが登場するなどしてます。主に広島市中心部より西側の辺りが描かれてる感じだったでしょうか。


『日和ちゃんのお願いは絶対』(電撃文庫・岬鷺宮さん) 2020年
※『失恋探偵ももせ』『三角の距離は限りないゼロ』『あした、裸足でこい。』などを出されている作者の方の作品。尾道が舞台のセカイ系恋愛ラノベ、だそうです。


『弥生ちゃんは秘密を隠せない』(小学館ガガガ文庫・ハマカズシさん) 2021年
※レーベルの紹介ページにある「ためし読み」で読める冒頭では、広島城に近い「音町高校」が紹介されてます。また、よっちさんが紹介されたガガガ文庫の「聖地マップ」によると、その高校に近いアストラムライン城北駅、その終点で広島市中心部の本通駅、その駅と接続する紙屋町地下街シャレオとその東方面の通りにあるストリートピアノ、紙屋町の西側にある旧市民球場跡地、更には宮島の厳島神社と宮島ロープウェイ、宮島の山頂である弥山が登場するそうです。
日刊わしら「広島が舞台の小説『弥生ちゃんは秘密を隠せない』発売!」

 

 

【番外】
『メイド喫茶ひろしま』(ぽにきゃんBOOKS・八田モンキーさん) 2014年
※真っ赤なバイク‐CB400FOURを駆り、“赤ヘルの多麻”と恐れられた滝本多麻が倒れた祖父の治療費と営んでいた喫茶店の借金返済の為に池袋の繁華街でメイド喫茶の経営に挑む、というお話。

 

『公務員、中田忍の悪徳6』(小学館ガガガ文庫・立川浦々さん)
※異世界から来たエルフと同居する公務員が主人公というラノベ。2023年5月時点でのその最新刊の裏表紙あらすじに以下の一文が……
”新たな〝耳神様伝説〟の残痕が、忍たちを広島県竹原市忠海町〝大久野島〟へと誘う”

 


【参照】
よっちさんの「47都道府県が舞台のラノベ」関連ツィート
※今回、この記事を書くにあたっての最初のきっかけの記事です。

ウィキペディア「広島県を舞台とした作品一覧」
※文芸作品だとラノベ以外が古今かなり作品が挙がってて、ラノベが挙げている1作しか見当たらず(多分)。

ブックオフオンラインの聖地巡礼ラノベ舞台マップ

 


※地方の街とかが舞台という「ご当地ラノベ」、地方ラノベとかローカルラノベとかその時々で口にしてましたが、とりあえずこちらが定着してるし馴染みやすそうです。

 その「ご当地ラノベ」への関心は遡れば……西尾維新さんの『新本格魔法少女りすか』(講談社ノベルズ)がきっかけでしょうか。最初の事件が少し前まで大学生活を送っていた福岡市内の地下鉄ホームだったり(コミカライズではしっかり福岡市営地下鉄の車両が描かれてました)、キャナルシティという大型商業施設などが登場してました。更に木崎ちあきさんの『博多豚骨ラーメンズ』(メディアワークス文庫)でも福岡の各地が描かれていました。
 その事があって、読むラノベを選ぶ際には時々ですが、地方が舞台の作品を手にする事もあったのです。
 東京都内が舞台の『神様のメモ帳』(電撃文庫・杉井光さん)、池袋とか秋葉原などが登場してアニメでより描写が加わった『冴えない彼女の育てかた』(富士見ファンタジア文庫・丸戸史明さん)、名古屋駅を中心とした『クロクロクロック』(電撃文庫・入間人間さん)『道-MEN 北海道を喰いに来た乙女』(ダッシュエックス文庫・アサウラさん)など、それなりにですが。

 またここ最近は作品出してませんが、シンデレラガールズの二次創作の連作で2015年頃の広島市内や宮島が登場するお話も書いてましたが、『この恋と、その未来。』が描く際のきっかけの一つでした(それを意識して胡町電停のシーンを書いてたりとかしてましたし)。新幹線を降りてから(当時改装工事中だった)広島駅北口のどこで自家用車に乗り合わせるか、仕事の帰りに現地に行って確認したり、平和公園や宮島で移動シーンをロケハンしたりとか、書き上げるまでに何度も宮島とか広島市内に取材に出れたのは、地元民だから出来た事でした。
 ……そう言えば去年の今頃とか、夏コミに向けて丸戸史明さん20周年記念合同誌に寄稿するための短編を書いている時に、新宿とか雑司ヶ谷などのシーンを描く際には、聖地巡礼でその辺りに足を運んだ記憶とかも駆使しつつ、日の出の時間とか地下鉄の始発ダイヤとかロケ地をストリートヴューで確認したりとか色々と調べて苦労したことを思い出しました……。

 ラノベと言えば異世界転生とか異世界ファンタジーとか、割と「異世界」がお馴染みだったりしますが、「ご当地ラノベ」は、地元民や旅行や引っ越しとか進学で訪れたことのある方にとっては馴染みがある土地だとしても、足を運んだ事が無かったり文献やテレビ番組とかでしか知らなかったり方々からすると、モンスターとかエルフとかは出てきませんがある種の「異世界」に映るのかもしれません。……という風に考えたりしましたのは、修学旅行での乗換で30分ぐらいしか滞在した事が無い名古屋が舞台の作品を読んだりした時に思ったからです。

 

(2023年 6月26日 18:28)

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2023年1月14日 (土)

2022年のラノベ・文芸・書籍……但し自分の見聞きし読んだ範囲での個人的な話題

 

※読書メーターの本棚、2022年に読んだ小説など(全部ではないですが)

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※一部同人誌が読書メーターに登録されていると知ったのも2022年の事でしたな。

 

◆ミステリ系クライム系伝奇系ラノベ、続刊継続と新規作品の登場

『また殺されてしまったのですね、探偵様4』 (MF文庫J てにをはさん)
『霊能探偵・藤咲藤花は人の惨劇を嗤わない3』 (ガガガ文庫 綾里けいしさん)
『ビブリア古書堂の事件手帖III 扉子と虚ろな夢』 (メディアワークス文庫 三上 延さん)
『博多豚骨ラーメンズ11』 (メディアワークス文庫 木崎ちあきさん)
『探偵はもう、死んでいる。7』 (MF文庫J 二語十)

『アマルガム・ハウンド 捜査局刑事部特捜班(1・2)』 (電撃文庫 駒居未鳥さん)
『サマータイムレンダ2026 小説家・南雲竜之介の異聞百景』 (JUMP j BOOKS 半田 畔さん・田中靖規さん)
『百合の華には棘がある』 (メディアワークス文庫 木崎ちあきさん)
『死亡遊戯で飯を食う。』 (MF文庫J 鵜飼有志さん)
『僕らは『読み』を間違える』 (角川スニーカー文庫 水鏡月 聖さん)
『腕を失くした璃々栖 明治悪魔祓師異譚』 (角川スニーカー文庫 明治サブさん)

 とりあえず2022年に読んだ作品は以上ですかね。
『また殺されてしまったのですね、探偵様』『霊能探偵・藤咲藤花は人の惨劇を嗤わない』の2作品が無事続巻が出続けて安堵してます。どちらも中々に特殊な状況で探偵が活躍しているので、次に何を舞台にするか予想不可能で楽しみです。
『ビブリア古書堂』シリーズは現実的な舞台での推理といった感じではありますが、本に絡む情念が相変わらず濃い。
21年にアニメ化を機会に読み始めた『探偵はもう、死んでいる』シリーズは派手なアクションとかの印象が強くてミステリに含めるか相変わらず迷うけど面白く読ませてもらってます。『博多豚骨ラーメンズ』の方は23年2月に12巻が出るそうです。去年だと『百合の華には棘がある』というスピンオフも出てます。

 去年の新規で今後に期待の作品で挙げれば『アマルガム・ハウンド 捜査局刑事部特捜班』というSF的なクライムサスペンスでしょうか。魔導兵器アマルガムとか色々とファンタジー要素がありながらも、欧州風の街並みの世界観を舞台にしっかり事件物として描かれているので。
『死亡遊戯で飯を食う。』はタイトル通りにデスゲーム作品。主人公周りが割と容赦なく死ぬ。この1冊だけでも趣向を凝らした2つのデスゲームを観ることが出来ます。
『僕らは『読み』を間違える』も、最初は読書感想と絡めた学生のお話という雰囲気だったのが、複数の人物と彼ら彼女らの感想文、そして内面でしか語られていない事情と、分からないからこそ「読み」違えてしまう切なさを目にすることで、青春群像劇的な日常系ミステリだと気付かされました。しかしまだ読書感想とか語ってない人物がいます。全てのピースが揃った時、絡まった人間関係がどんな結末を描くのか、続きに期待したいです。
 伝奇的な作品で挙げるなら『腕を失くした璃々栖 明治悪魔祓師異譚』ですね。明治の近代化した世界観と悪魔と悪魔祓師が交わるゴシックホラー、真言密教とか東洋魔術と西洋魔術が絡み合い、ちょっと古風な文体が時代の雰囲気を出しながらも、活劇と謎に満ちた熱い展開が見ものです。

 新規作品で第2巻が予告されてるのはMF文庫Jライトノベル新人賞優秀賞の『死亡遊戯で飯を食う。』(第2巻は23年1月の発売)、第27回スニーカー大賞・金賞の『腕を失くした璃々栖 明治悪魔祓師異譚』と銀賞『僕らは『読み』を間違える』、と良い具合に当たりを引いてますね。

 

 

アサウラさん作品
『小説が書けないアイツに書かせる方法』(電撃文庫)
『リコリス・リコイル Ordinary days』 (電撃文庫)
『サバゲにGO! はじめてのサバイバルゲーム(1・2)』 (LINE文庫エッジ)
『道―MEN 北海道を喰いに来た乙女』 (ダッシュエックス文庫)

 いや本当に『リコリコ』スピンオフの店頭販売が遅れた所為で代わりに読みだした同時発売の作品がきっかけで、その作風を知って他の作品を買い漁ったという感じです。『ベン・トー』(タイトルだけは知ってましたが)を書いた方だと気付くまで本気で手慣れた新人ラノベ作家かエロゲシナリオ作家からの転出、アニメ脚本作家(『リコリコ』脚本担当)のラノベデビューだと思ったくらいで。サバゲとか重火器、喰、味のある迷脇役など過去作での成果が2冊の最新作に結実されたんだなって思いました。

 


『サラゴサ手稿』を巡るいくつかの謎が明らかに

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 長らく恐らく自治体の大きな図書館や大学図書館でしか収蔵がないと思われる『サラゴサ手稿』翻訳本が、新たな全訳本として2022年、たいていの書店で扱いのある岩波文庫より畑浩一郎氏によって刊行されました。

 それまでこの作品は国内では、1958年の「カイヨワ版」(14日目まで収録)を翻訳したと思われる国書刊行会の世界幻想文学大系に収録された1980年刊行の工藤幸雄氏が翻訳された書籍が(図書館に収蔵される程度でですが)一般的だったと思われます。それは幻想文学の解説書『幻想文学概論序説』(1970年ツヴェタン・トドロフ著 三好郁朗訳 1999年創元ライブラリ)でも高い頻度で事例として取り扱われ“フランス語で書かれた幻想小説の先駆と見なされ(岩波文庫『サラゴサ手稿(中)』訳者解説)”たように、半世紀にも渡り長く幻想文学的な作品として位置付けられてきたのです。
 その後、1989年になって全貌を明らかにした「コルティ版」(66日目まで収録)が海外で刊行され、恐らくその翻訳として工藤氏が66日版の翻訳を手掛けられ、やがて出版されるだろうと『幻想文学論序説』の1999年7月12日付訳者あとがきで触れられてから23年余り……。
 2022年秋、突如岩波文庫から畑浩一郎氏による「初の全訳」とする書籍が刊行されたのです。何よりも驚きなのは本当に初めての全訳としての出版だった事もですが、それが61日目までの内容だという事、そして2002年に“ポーランドのポズナニで調査を行っていた二人の研究者(フランソワ・ロセとドミニク・トリエール)があらたに六篇のポトツキの草稿を発見”し、“『サラゴサ手稿』には少なくともふたつの異なるバージョンが存在する(岩波文庫『サラゴサ手稿(中)』の訳者解説2「『サラゴサ手稿』の来歴」より)”という発見があったという事実でした。そこまでアンテナを立ててはいなかったから、そのような噂も全く初耳で。ともかく、66日目までの全訳が未だ刊行されなかった経緯を想像させるだけの出来事がこの20年ぐらいの間にあったというのです。色々と考察した記事も去年11月に書いてました

 ……実は年末までに旧訳に当たる国書刊行会版で翻訳されていた14日目から少し先まで新訳を読み進めてましたが、幻想文学的事例とされた何度もループするかのような出来事もそうではなくなったりと、確かにいくつかの場面が異なった内容に変わっていたり幻惑的な表現が薄れているようなという感じに変わってはいますが、まだより具体的な新訳旧訳読み比べには至ってないです……年末ごろからも進展がないとか(仕事とかで忙しくて)。そうこうしてるうちに来週1月17日には下巻も刊行されます。

 

 

並木 陽さんの歴史同人ノベルと舞台化、商業作品化

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 7世紀ブリタニア。アングロ・サクソン7王国時代を舞台に祖国ディアラを征服したバーニシア王アゼルヴリスに嫁いだディアラ王家の姉アクハと祖国再興を志す弟エドウィンが臨む全ブリタニア覇権を巡る物語『ノーザンブリア物語(上下巻)』。モンゴルの征服迫る13世紀のジョージア、モンゴルに破壊された故国復興の足掛かりを求めるホラズム王子の侵攻に翻弄され、兄王の死や慕っていたルームセルジュークの王子ディミトリの(故あっての)裏切りに遭いながらも、ホラズムに奪われていた都トビリシを取り戻す王女ルスダンの物語『斜陽の国のルスダン』
 22年4月に同人誌生活文化総合研究所の三崎尚人さんのリツイートで作者の方の『斜陽の国のルスダン』宝塚上演告知を知らされなかったら、この作品について知る機会がなかったか、かなり遅れてたと思う。事実、知ってすぐその同人誌小説文庫を取り寄せようと動いた数時間前に品切れてて、後日の改訂版を入手するまで待ち焦がれてましたし。その時に代わりに取り寄せて先に読ませていただいたのが『ノーザンブリア物語』でした。同人誌と言っても市販の文庫本と見劣りしない形であり、そして波乱に満ちた壮大な物語を収めてあります。なお、『斜陽の国のルスダン』は宝塚での舞台化で注目されたのに合わせて22年11月に星海社FICTIONSにて新書サイズのノベルとして商業出版されてます。
 自分もいつかはそう言った歴史を舞台とした物語を書きたいと思ってましたが(いやもうずっと思ってるだけになってるけど)、歴史大作を小説にするならもっと分厚くなる分量でなければならないと今まで身構えるかのように思ってました。その価値観を覆す意味でも個人的にはかなり印象的な作品群だと言えます。

 

◆ハザール汗国


『物語 ウクライナの歴史』(中公新書 黒川祐次著)の中で、コーカサス北部~南ロシアに存在したハザール汗国という初期キエフ大公国と関わりのある国家について触れられてました。その内容については見聞きしてたテキストと似ているなと思いましたが『ハザール 謎の帝国』を参考文献とされてたそうで。歴史からすればかなりマイナーともいえるハザール汗国について、少しでも知っていただける機会になったのではないかなと思います。

 

◆中央総武線最寄りP『CINDERELA TRIBUTE』シリーズのBOOTH通販開始

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心霊科学捜査官シリーズや『ヒト夜の永い夢』『アメリカン・ブッダ(第52回星雲賞日本短編部門受賞)』『走馬灯のセトリは考えておいて』『スーサイドホーム』『メイド喫茶探偵黒苺フガシの事件簿』などSFから伝奇的な作品、ミステリまで手掛ける戦国武将と同じ名前でも話題の柴田勝家氏
『PSYCHO-PASS サイコパス』の「ASYLUM」「GENESIS」という公式外伝や「Sinners of the System」や3期のアニメ脚本にノベライズ、『泥の銃弾』などのハードボイルドやSF作品などを手掛ける吉上亮氏
『伊藤計劃トリビュート』収録の「仮想(おもかげ)の在処」など書かれたSF作家の伏見完氏
 この3人を中心に、更に21年冬コミではアニメ『正解するカド』の野崎まど氏、『ストライク・ザ・ブラッド』の三雲岳斗氏、漫画原作者・シナリオライターの渡辺零氏が加わる形で、「バベル」などアイドルマスターシンデレラガールズやそのゲーム内イベントを元に想像を膨らませた形で、割と本気なSFやミステリー、伝奇といった作風の短編を集めたデレマス二次創作アンソロジー同人誌『CINDERELA TRIBUTE』シリーズ
 それまではコミックマーケット会場内でしか頒布がなくって、2017年夏コミ会場で彷徨っていた時に偶然サークルスペース前に流れ着き手に取り購入した第1号誌以降、コミケでのそのサークルの参加がなかったり、冬コミでの新刊刊行だったり、自分自身の夏コミとかへの参加が出来なくなってたり、でそちらの同人誌を手にする機会がなくなり、コミケ直前に挙がるサンプルページだけを何度も読み返すなどして我慢してきました。それが22年に入って、21年冬コミ新刊がBOOTH通販され(1次出荷分は察知遅れて2次で注文)、春には2冊目を除く既刊が通販で取り扱われ、22年夏コミ新刊も通販で扱われたのです。21年冬コミ本はギックリ腰でリハビリ中に何度も読み返してましたな。
 SF作家の方々が手掛けるその壮大かつ創造豊かな短編は読み応えもあり、次の作品が楽しみでなりません。

 

 

◆『このラノベがすごい』でミステリー系ラノベの取り扱い枠がなくなっていたこと。

 数年前まではジャンルごとの紹介があり、ガイド本として重宝してた時期もあったこの年刊本でしたが……。

 一方、『2023本格ミステリ・ベスト10』では数ページに渡り紹介記事が掲載されてました。

 

エールエールA館への移転に明確に反対します。(広島市中央図書館建替問題)

※こちらについては昨日にブログに載せてますので。


(22年1月14日15:35)

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2021年9月21日 (火)

『忘れえぬ魔女の物語』第一巻についてのパラドクス考察とか

GA文庫『忘れえぬ魔女の物語』 著:宇佐楢春さん イラスト:かも仮面さん
「忘れえぬ魔女の物語」特設サイト(GA文庫) 
https://ga.sbcr.jp/sp/wasumajo/index.html

 

 その作品を知ったきっかけはニ月に発行された雑誌『SFマガジン』2021年4月号での第一巻の紹介レヴュー紹介で、清楚で大人しそうな黒髪ロング少女とおさげ少女が放課後の教室で並ぶ表紙だけど、なんか壮絶なストーリーのSF作品らしいと目に留まった事でした。ただまぁ、その時はまだ女の子二人がくっつくぐらいの濃厚友情に時間ループなどのSF要素が絡む物語だという程度の認識でしたけど。
 ところが実際に手に取って購入してから(仕事とか積み本とか色々あって読み始めるまで間が空いてしまいましたが)いざ読み出してみると、そんな軽く見ていた第一印象は早々に打ち砕かれてしまいました。

 

 主人公・相沢綾香とその新しい親友・稲葉未散とクラスメイトなど僅かな周囲、そして傍目には学園生活での日常というごく普通の世界が舞台であるにも関わらず、「綾香ただ一人が『今日』を繰り返す世界」という特異な状況が壮大かつ壮絶としか言いようのない主人公の物語を紡ぎ出していたのです。

 

 

  ★    ★   ★

 

 

 注意。ここからは《ネタバレ》少し交えます。

 

 

 

 

 

 

 

■綾香だけがどれくらい特異かと言うと、まずは

 

 違うパターンの同じ日を平均五回も繰り返して、
 それらの内の一日だけが採用されて翌日に進む

 

という事があげられます。これが生まれたその日から続いていると言うのです。綾香自身は実体験している年数を七十数年と見積もってます。

 

 それに加えて更に特異なのは、綾香自身は生まれたその時からの出来事、更には採用されなかった一日の出来事までも全て覚えているという「完全記憶能力」を持っているというのです。それ故に作品の表題も『忘れえぬ魔女の物語』と記されてます。

 

 それら綾香だけが体験する特異さの為に綾香は、奇異な行動とみなされ無理解となってしまった両親とも絶縁であり、友人も作らず、ただ社会性を保つ為に勉学に励むだけ……けれどもその繰り返しの能力と記憶力があるが為に、
「めちゃ浮いてるじゃん。ろくに授業聞いてないっぽいし。ノート真っ白なのに小テストいつも満点だし」p40
というようにかえって周囲と更に隔たりができてしまいますが。

 

 

■そんな綾香の孤独な日常に風穴を開けたのが、高校の入学式直前に現れて友人となった未散でした。それまでにも入学式を何度も繰り返したとかあって、地獄と言ってしまうくらい人生に退屈していた様にしか見えなかった綾香はこの出会いを機に変わり始めます。

 

 クラスメイトからも「あいつ変だからやめときなって」と言われても「私には関係ないかな」と寄り添い、「私、大人になったら魔法使いになるんだ」と告白して、綾香の過ちをたしなめ喧嘩別れしてしまっても仲直りしてくれて、綾香の特異な秘密……綾香が告白した秘密は「完全記憶能力」だけですが……を
「すごい! 病気じゃないよ。才能だよそれは。相沢さんすごい!」p119
と普通に受け止めてくれる未散。

 

 そのようなこれまでになかった身近な存在と一緒にいることで、綾香は、地獄とも口にしていた何回も繰り返す一日の中で楽しみを感じ始めます。
 けれども、それらの一日の内で採用されるのはたった一回の一日だけで、それ以外の採用されなかった一日は綾香の記憶の中にしか残らないという現実を前に、綾香の特異さを未散が受け入れてくれたような採用を望んだ楽しかった一日ほど採用されないという諦観、更には取り返しのつかなくなる寸前だった事態など、様々な出来事を通じて今進行しているその一日の貴重さを感じていきます。

 

 どんな事があっても目の前にある綾香を受け入れて友人でいてくれる未散は、綾香にとってまるで唯一無二の親友かそれ以上の掛け替えのない存在となっていくのです。

 

 

  ★    ★   ★

 

 

■個人的にこの作品が印象的であり特異なのは、以上の綾香の特異さに加えて、主人公の綾香の性質が表面的な面と内面とで乖離が激しい事があります。

 

 繰り返しになりますが「大人しそうな黒髪ロング」美少女だと思ってた主人公の綾香は、生まれてから高校一年生までの人生だけでも普通の人の大体五倍くらいの時間を過ごしてきた老練な「魔女」であり、その異質さの所為で両親とさえ家庭内別居という不遇な日常を重ねているだけに達観していて、他者と関わり合わないとか、周囲を冷めて見ているといったかなりスレた性格をしているに留まらず、挿絵のあの表情……エス?(二巻めだと一部で女王様扱いだしな)とかパンチとか(笑)そんな攻撃性も忍ばせていたりもします。
 お人形のようだと軽んじて手を差し出したら倍返しな迎撃を受けてしまいそうな……いや実際に敵対した相手に
「戦争をしましょう」
なんて物騒な宣戦布告を口にしていたりと、これだけでもなかなか意外性大き過ぎてインパクトあります。ですが、それに留まりません。

 

 そんな孤高の「魔女」のような生き様が、高校に入学して未散という友人と出会った事で一変してしまうんです。さっきより綾香の内面に踏み入ると、長らくの他者との距離感が不慣れなのも手伝って、急に外観相当の乙女なところが溢れ出したりとか心に秘めていた意外な一面がダダ漏れし始めるのです。それがあの冷徹な性格とマーブル状になってるもんだから、その外面も内面もどっちに流れちゃうのかと目が離せなくなります。
 
 そんなオモテウラを更に引き出すのが、一人称による地のテキストでの生々しい感情の吐露です。それが先の、大人しそうなビジュアルに沿わないかなりスレた性質とのギャップなどをより一層膨らませているのです。と言うか繰り返しになるけど老練で冷徹な魔女から初恋百合恋乙女まで、綾香さんの心の中の感情がブレ過ぎです。
 そんな作風は、第二巻で一人称を担った人物が地の文では口にしている言葉以上に心の揺れ動きが露わにしたりもしてます。

 

 

  ★    ★   ★

 

 

 さて実はここまで、四月ぐらいからこの九月後半まで今作1~2巻を何度か繰り返し読み返しながらかなり何度も感想とか考察のような何かをスマホに撃ち込んでは書き直してました。いやまぁ、お仕事多忙とか他作品の読書などで、その思考から離れたりもしてましたけど。

 

 この『忘れえぬ魔女の物語』は事の成り行きを素直に受け止めていれば、女の子達の厚い友愛の育みを見守りつつ、それに絡む異能と異変、更には壮大なる難関の解決を見届けて、終着のエピローグに辿り着けるかと思います。
 しかしながら、作中の細かいやり取りやその成り行き、そして回避不能だった惨事がどのように抜け出せたのか、といった事に目が留まってしまうと、途端にその過程が気になってしまいます。
 なので読み返していた訳ですが……忘れえぬ魔女さんと違って覚えが悪いらしく、一度読んだ所でも次には別解釈で処理していたり、肝心な所を見落としていたりと、強いて言えば読めば常に何かの気付きがあると言った感じで読み応えがありました。また先に触れた感情あらわな地の文の心地よいノリも繰り返し読み返させるのを手伝っていました。

 

 そうして何度も読み終えた後に気に掛かった事がいくつかありますが……

 

 

■まずはいきなり話を飛ばして第二巻での「なんでなんだ事件」についてはちょっと深読みし過ぎてました。

 

“教科担任はおまえに満点を取らせたくなくて出題を難しくしてるんだ。平均点への影響を最小限に抑えつつ、最終問題だけ難関私大の過去問から引用している。だから満点回答者がいないんじゃないか。おまえ以外は” 第二巻p161 深安なつめの証言

 

 綾香がテストの難問を軽々と解いてしまうもんだから教師が超難問を用意してしまい、それでさえも綾香が解いて満点の成績を収めていた事に対する、その超難問の所為で満点を取れなかった生徒の叫び声だったんですね。
 それを別ループ的なラインでの出来事が絡むとばかり想定してしまいました。

 

 

  ★    ★   ★

 

 

 次は根幹的な出来事について。
 ここから触れるのは第一巻最深部での《ネタバレ》と絡みます。

 

 

 

 

 

 まず先に触れておきますのは、第一巻の第四章冒頭に記されている予告の通りです。
 十月五日に未散は必ず死にます。
 その運命に対して綾香は十月五日を何度もやり直してその死を回避させようと必死になって抗っていくのです。

 

 綾香が思いつく限り、どんな行動を選んでも回避不能としか言いようがない未散の運命。それに対して綾香が何度もやり直す中、このようなパラドクスが起こりました。それが、十月五日よりも未来から遡ってきた事を思い出し十月五日の事を綾香から教わったと言う「憶えている未散」の登場です。

 

 十月五日という特異点を起点に可能あるすべての分岐先で確実な死に至る未散がどうやってその運命をくぐり抜けて未来に至り、そして過去に戻る事が出来たのか。

 

 なお、第一巻の作中では具体的に未散が未来から過去に戻るきっかけには触れられているものの、どんな感じにタイムリープしたのかという過程が描かれていません。第二巻にて別のケースで二人がタイムリープする場面が描かれているだけです。
 なので、ここでは「綾香と未散の二人が運命の特異点をどうやって突破する事が出来た」のかに焦点を絞って色々と考察してみたいと思います。

 

 

  ★    ★   ★

 

 

【未散パラドクスその1  必ず死ぬ未散と未来から来た未散の二律背反問題 】

 

 

 まずは【未散パラドクス】の状況を記してみます。

 

★魔法使いになるという不思議な未散
 未来に魔法使いになると少なくとも五月二十日AとBで告白している。ただし「魔法使いになる」と述べるだけで、どういった魔法が使えるか具体的な説明はない。
 デジャブのような近時の出来事の予知程度の事が何度か。デジャブのような夢を時々見ることもあるという。綾香の五月二十日Aでも未散はそのようなデジャブを口にしていた。

 

★十月五日、未散は必ず死ぬ。
「未散が必ず死ぬ」その十月五日は綾香にとっても特異点で、その日だけは何故かその一回で確定してしまう。
 どう足掻いても未散が死んでしまうのは、未散が魔法使いになるのを阻む為の強制力が働いている可能性がある。
 ただし「憶えている未散」が必ず死ぬ十月五日のポイントを越えた先(未来)から来たという前提からすると、どこかに必ず死亡ポイントを越えた生存ルートが存在しているはず。

 

★未来から遡ってきた「憶えている未散」(十月五日ALMとALS)
「ずっと忘れていたけど、私は未来から来たんだ。未来から戻ってきて、もう一度綾香に出会った」p247
「『前回』の私が魔法使いになったのは今日だから。タイムリープして時間を遡っちゃった今の私はまだ魔法使いになれていない」p251
「本当はね、憶えているはずがないんだよ。未来の記憶は過去に戻った時点で、記憶はその時代と混ざって無意識の下に沈んじゃうから。でも、綾香が千回も繰り返したから世界が壊れた」p252
 未散は未来にいた綾香から「この世界は繰り返している。一日は大体五回ぐらい」p246と「今日これから起こることとか」を教えてもらったと話している(今の綾香にはそんな憶えはない)。
「うん、採用されなかった十月五日に何があったか、綾香は憶えてなかった」p253

 

「未来は分岐するから。この可能性の先が行き止まりじゃないって保証にならないかも」p254

 

 

 以上の情報の他、作中に記されている事を絡めながら考察してみます。

 

 

  ★    ★   ★

 

 

■未散が死亡ポイントを脱する条件

 

[1]
 十月六日を迎えてしまった綾香が、確定してしまった前日をやり直す方法を今までの経験から探り出し、優花が死亡する可能性もあったけどその運命が採用されなかった五月二十三日での異変(高確率で優花が事故死してしまう可能性があった)を見つけ出す事。そして、そこで事故死する展開を捻じ曲げ改竄したはずの優花を頼り説得して、優花が仕掛けたそのインチキで十月五日の惨事よりも前に戻る事。

 

 ただし優花は綾香を独占する事を望んでいる事から、恋敵?である未散を手助けする理由がない。
 なお、もし仮に綾香が優花のズルに気付かなかった場合、絶望のまま十月六日がそのまま進行する。もしかするとその日はまた繰り返してしまうかもしれないが、実証されない限りその保証もないし、繰り返すにしても有限だから前日に戻る方法が見つからなければ無為に過ごすだけの可能性もある。

 

 綾香の推測ではその優花のインチキ(優花の魔法)は綾香の経験していない一日を綾香に採用させた、と見ていた。
 実際には記憶の情報を切り貼りしてしまう魔法だった。
 五月二十三日、綾香が経験したA~Fの六回のその日で、優花が綾香の部屋に遊びに行くと約束した事、しかし夜になっても来なかった(優花が事故死してしまう)事、Eで綾香が優花の事故死を目撃した事(事故の発生時刻の記録)、Fで綾香が優花に外出しないように説得した事と綾香が優花の部屋に泊まったという一連の出来事(優花が生存する展開)及びそれらの綾香の記憶情報を素に、優花は自らが死なない展開を切り貼り改竄して作り出し、その五月二十三日を綾香の五月二十四日の始まりに貼り付けていた。
 これはつまり、綾香が経験していない事をでっち上げたのではなかったという事。

 

〝それぞれの一日の事実関係を切り取って、いいとこどりするだけ。いわば起ったことの寄せ集めで、起こらなかったことを起こすことはできない〟p223

 

 そして十月五日について、綾香は朝起きた時からその惨劇までを記憶していた事から、先の事例よりも単純に、十月六日の後に十月五日の朝を繋げるだけで時を継ぎ接ぎする魔法を実行できる条件が揃っていた。
 ただ、恐らく以上の要素も必要条件だったけど、それ以上に、五月二十三日に綾香が優花の命を救ったという事実があったから、優花にとって不都合な未散の生還の手助け、十月五日と六日を改竄する魔法を施してもらえることになったと言える。

 

「綾ちゃんがあたしの生存日を作ってくれなかったら、正真正銘あそこでおしまいだったんだ」p223

 

 なお、ここまでの過程で明らかですが、優花の魔法で十月五日に戻る条件には更に上の条件として、五月二十三日に高確率で起こり得る優花の事故死を回避する必要があります。
 つまり、そこで優花の事故死が確定してしまうと、数ヶ月後の十月五日に未散が死んでしまっても、優花による回避手段がとれないのです。完全に手詰まりです。
 もうすでにあんな所から運命の選択が始まってたんですね……。

 

 

[2]
 綾香が例え百万回も十月五日を繰り返しても、決して二度とその日を越えてしまわない事。
 先の[1]のやり取りで十月五日をやり直したとして、今度は無限の袋小路のような未散のバッドエンド(死亡ループ)が待ち構えていました。しかも万が一、綾香が繰り返す惨劇に屈してしまうか選択を誤って翌日を迎えてしまうと未散死亡ルートが確定してしまう……という思い込みに綾香は縛られる事になります。
 正確には、越えてしまってもまた優花に頼れば[1]のやり取りの繰り返しで戻れる可能性が残されていますが、けれども、先の[1]でも優花を説得する手順をクリアするのに骨が折れたし、手順を知る二度目で説得する熱意・必死さがどれだけ(恋敵とも言うべき未散を助ける義理がない)優花に伝わるか不確定である事を考えると、十月六日を頼りにするのもまた確実ではない。
 故に綾香は次善かつ十月五日を確実にやり直せる自死という当日リセットを選ぶしかない。

 

 

[3]
 綾香の執念が優花の綾香に対する執念を上回る事、優花が根負けして未散が魔法使いになるのを手助けする事。
 優花は元より、未散が魔法使いにならない=排除されれば綾香との現状を続けられるから、そもそも手を貸す理由がない。いつか諦めるだろうと考えて、十月六日、綾香に十月五日をやり直させるのに手を貸したのだろう。
 ところが、諦めるどころか百万も同じ日を繰り返して歪みを生じさせてしまうくらいの綾香の執念と未散が魔法使いになるというその確信を目にして、百万回の後の十月五日に優花は、このままだと綾香が本当に壊れてしまうかもしれないし、未散の存在に敵わないと見て、ついに根負けしてしまった。

 

 ただし、優花は綾香に、ここまで繰り返して来た十月五日の記憶を全て求めてきます。というのも、未散が魔法使いになったとしても、そのままだとそれを阻止する力に抗えないからです。

 

「だからあたしは提案する。稲葉ちゃん(未散)に魔法使いになってもらって、綾ちゃんの記憶を代償に魔法で彼女自身の運命を改竄してもらうことを」p288

 

 そしてその代償で最後に十月五日‘Aを迎えた綾香は、それまでのその日の記憶を失い実質リセットさせられた状態で目覚めます。ただし記憶をリセットさせられたと言っても、正確にはそれらの断片が残されていて夢として綾香の中に現れるのですが……

 

 

 過程としては以上の条件を綾香が執念でクリアした事で、未散が魔法使いになる展望がやっと開ける、といった感じです。まだ油断できません。

 

 

■しかし……ここまで、死亡ループの当事者である未散は何一つ手出しできないというか、完全他力本願なんですよね。

 

 最初に綾香が十月六日に至った時に綾香が優花の魔法に気付けないまま失意に過ごす可能性、優花が魔法使いだったと突き止めても優花を説得できない可能性、優花の魔法で十月五日に戻れても繰り返す未散死亡に綾香の心が折れる可能性、未散死亡確定のまま不慮の出来事で綾香が翌日を迎えてしまう可能性、更に優花の協力が得られず十月五日に引き返せない可能性……そもそも優花にとって、未散が魔法使いになると綾香を奪われてしまうから、五月二十三日の恩があったとしても優花には綾香を手助けする義理も必要もない。というか五月二十三日に優花が事故死したままだと十月五日で死んでしまうと未散はお終いです。
 などなど、綾香の信念と更に言えば記憶の中から気付くひらめきや運が足りなければ、未散が魔法使いになるのを阻む強制力に容易に屈しても仕方がないという感じで。

 

 このように自分では全く関与出来ない上にハードルが多過ぎなのに、それでもなお、未散が全ての運命を綾香に委ねているのはやはり、未散は綾香に導かれていつか必ず魔法使いになると確信しているから、としか言いようがありません。

 

 

  ★    ★   ★

 

 

■それでは、タイムリープしてきて綾香の事情もある程度知る「憶えている未散」と、ついに綾香の前にを最後に現れた「魔法使い」の未散は何が違うのでしょう?
 まず「憶えている未散」については、タイムリープの魔法で遡った時点で魔法使いとしての能力を失っていて、だから彼女自身はタイムリープした先の今はまだ魔法使いでは無いと言っています。そして綾香が繰り返しに陥っているという事情も知っているようです。ただし、語る限りでは知っているのはその程度で、「採用されなかった十月五日に何があったか、綾香は憶えてなかった」p253と話すように繰り返した不採用の十月五日の出来事も知らず、それにどうやって十月五日を抜け出せたのかについても実は語っていません。
 十月五日ALMの未散は告白して数時間後にあっさりと死に、もう一人、十月五日ALSの未散も、いくつもの命の危機を乗り越えてその日の晩に綾香の部屋にお泊りしますが、不運な事に近所のガス漏れ事故に巻き込まれて二人とも十月五日の内に他の例と違わず死んでしまいます。

 

 一方の十月五日‘Aの朝出会った時には既に魔法使いとなっていた最後の未散は、それから次々と二人を襲う運命の危機を夢と変えて次々と回避していきます。そしてついに、未散は生き延びて綾香と二人で十月六日を迎えたのです。

 

 この二人の未散の違いは、「憶えている未散」は最後に採用された十月五日の記憶しか綾香に教わらなかったのに対して、「魔法使い」として現れた未散は、それまで綾香が体験した十月五日の記憶全てを使って運命を改竄できるようになった未散だったと言う事です。

 

 そこから導き出せる【未散が死亡ポイントを脱する条件】は……

 

 

 

 

[4]
 綾香が出来るだけ多くの未散の死を目撃して記憶している事。

 

 百万もの膨大な未散の死屍累々を目の当たりとしてきた綾香の記憶は、これから起こる事故を予見するだけでなく未散の死の運命をも改竄する糧として、最終的な未散の生存ルート突破のために必須だったのではないでしょうか? だからこそ、優花が未散を魔法使いにする為に綾香に要求したのでは。

 

 そう推測すると、魔法使いになっていたけれどもその途中で死んでしまう未散の場合は、その死を回避するための情報が足りなかった、という事となります。

 

 

 

 以上が未散パラドクスの一部、どのようにして二人が十月五日を生き抜く事が出来たのかについての考察です。いやもしかすると考察と言うよりも出来事を整理してみただけかも?

 

 

  ★    ★   ★

 

 

【十月五日のパラドクス構造】

 

 

■十月五日A、未散は必ず死ぬ。
 ↓
■十月六日に綾香は優花に時間を遡らせるよう要求する。そして優花の魔法で十月六日の後に五日を繋げて改竄してしまう。
 ↓
■十月五日B、綾香は未散の死を目撃する
 ↓
 ↓↓
 ↓↓↓
■十月五日B以降、綾香は未散の死を回避する為にあらゆるパターンを試みるというループ状態に陥る。そうして百万もの未散の死を記憶する。
 ↓↓↓
 ↓↓↓
■綾香の執念に優花が折れる。未散を魔法使いにして、綾香の抱える百万もの未散の死の記憶でその死の運命を改竄してもらうことにする。
 ↓
■綾香はそれまでの十月五日の記憶を忘却する。
■十月五日‘A、「魔法使いの未散」は綾香のそれまでの十月五日の記憶を素にして「未散は必ず死ぬ」運命を改竄して回避する。
■綾香は最後に体験する十月五日‘Aだけしか記憶しない。
 ↓
■綾香は未散と十月六日を無事迎える。
■ここでの綾香は最後の十月五日‘Aの事しか未散に説明できない。「憶えている未散」の形成
 ↓
■未散は何らかの事情で四月の入学式の日へとタイムリープ魔法を使う。
 その時点で未散は未来の記憶とタイムリープ魔法を使った記憶、そして魔法使いの能力を失う。
「本当はね、憶えているはずがないんだよ。未来の記憶は過去に戻った時点で、記憶はその時代と混ざって無意識の下に沈んじゃうから」p252
 ただ、将来魔法使いになることだけは憶えている。
 ↓
■未散は四月の入学式の日に綾香と友達となる。
 ↓
■五月二十三日に優花が事故死する。この日は高い確率で優花が死ぬ。
【分岐】綾香がそれを回避出来なければ、十月五日の運命は変えられなくなる。
 ↓
■十月五日A、未散が必ず死ぬ。
 ↓
以降、この流れを繰り返す。

 

【未散パラドクス】の構造、物語の流れとしてはこんな感じでしょう。

 

 繰り返しになりますけど、未散自身の運命が関わるのに、未散本人は綾香によって唯一の突破口が開くのをただ待つだけしかないと言う主体性の無さが際立ちます。とは言え……いつか必ず綾香が導いてくれるという確かな信頼があるから綾香に全てを委ねているのだとすれば、未散の綾香に対する信頼というか……この愛は凄く重いわぁ。

 

 

  ★    ★   ★

 

 

 これで十月五日に必ず死ぬ未散が未来からタイムリープしてきたという【未散パラドクス】について説明できましたが、実は多分もしかしたらまだいくつか別のパラドクスがあるような気がしてしまいます。

 

 

  ★    ★   ★

 

 

【未散パラドクスその2 チルチル未散マルチバッドエンド仮説】

 

「未来は分岐するから。この可能性の先が行き止まりじゃないって保証にならないかも」p254

 

 十月五日の未散のあらゆる死の体験から、AVG(アドベンチャーゲーム)でいうバットエンドの度に分岐前に戻って別ルートに進んでいく総当りコマンドプレイを思い浮かんだんです。なお、 酷いネーミングは色々と考えてる内に思いつきました。

 

 未散は十月五日までに何度か、デジャブと呼ぶような簡単な予感を何度か口にしていました。具体的には、綾香の観測する五月二十日Aで未散から、その日の授業で回答者に指名されると、ついでにその日の天気について、これから起こる出来事を予告していたのです。
 この五月二十日はちなみに、記されているだけでAとBの回で綾香は未散から自分が将来魔法使いになるんだと告白された日でもあります。そして綾香はAが不採用となっても良いように、出来るだけAと同じになるようにBで行動をとっていました。

 

「本当はね、憶えているはずがないんだよ。未来の記憶は過去に戻った時点で、記憶はその時代と混ざって無意識の下に沈んじゃうから」未散 p252

 

 綾香が十月五日を繰り返してきて展望が見えない事に挫折しそうになった頃に現れた、無意識の下の記憶を思い出した「憶えている未散」がそう説明していました。
 つまりはデジャブとは、無意識下に沈んでいた記憶が断片なりに思い浮かんだものだとなります。だから、そのデジャブの原資は前回の未散の記憶です。

 

 しかし、本当にそれだけなのでしょうか?
 仮にそれが前回の記憶だとして、それは前回の綾香が採用した日の未散の記憶なのか?
 五月二十日については、AとBについて綾香が語るだけで、二回しか繰り返さなかったのかとか、どれが採用されたかについて綾香は触れていないのです。なので色々と推論の余地が出てきます。
 これもまた触れられていないので不明な事として、Bの未散はAと同じ内容のデジャブを口にしたのか、という事があります。
 もし未散がBでは魔法使いになるという告白以外はAと異なる行動をしていたなら、綾香がAを採用した場合は、Aでの未散の行動の記憶が未散の中に残るのか?
 この場合、未散はそれぞれの五月二十日の中で行動を変える事で分岐し分裂しているから、その日の未散はAの行動を憶えている未散とBでの行動を覚えている未散に分かれてしまう筈です。
 もちろん、綾香が観測する未散についての記憶は文字通り余す所なくAもBも綾香の中に記憶されているのですが。

 

 ここまでの考察だと、分岐した未散は個々の存在となって、それぞれがもう交じり合う事がないという状態となるのですが……
 しかし未散の場合は十月五日の運命の日に阻まれて行き止まりとなってしまうのです。綾香と一緒であっても千回どころか百万回あらゆる事をしても回避困難な確実な死。

 

 ここで自分が連想したのがAVGにおけるマルチバットエンドです。マルチエンドではなくそんな一発即死ルートばかりのゲームがあったんよ、『カノソ』って言うんだけど。

 

 自分の選択で行動していった果ての十月五日に死ぬと、その前に戻ってやり直して、そこで総当たりで行動してもダメだったら、更に一つ前の分岐に戻って……

 

 そんなことを未散はしてきたんじゃないかなって推論したというかこれはもう、想像したんです。
 それこそ、バットエンドに至ったルートの記憶は過去の分岐点に遡る事で無意識の下に収められていくと。四月のタイムリープしてきた基点から十月五日まで、もし全て綾香のように記憶していたなら、綾香の十月五日に匹敵する情報量だったかもしれません。そんな綾香でさえ壊れかけてしまう情報量を抱え切れる訳が無いから、未散の場合は無意識の下に断片的に記憶しているのかなと。

 

 で、この推論の極論で言うと、遡って辿り着いた四月の時点でタイムリープの記憶とかを忘れてしまった未散は、もしかするとその時から総当たりを始めていたのかもしれないのです。つまり綾香とは別のお友達を作っていたりとか。デジャブという予知も、それまでに何件もの行き止まりまで総当たりしてきた未散の無意識の記憶が素となっていると。
 そして未散が何人もの人と仲良くなって総当たりで行動してみても十月五日を突破できない中、やっと綾香を友人とした事で、それでも十月五日に何度も死んでしまうけれども、最後には魔法使いとなって綾香の記憶で運命を改竄して切り抜けて、ついに十月六日に辿り着く生存ルートを見つけ出せた、そんな可能性を考えてしまったのです。

 

 もちろん、綾香と一緒に抜け出せた未散の前回の記憶が素となったデジャブとか強い運命によって四月に真っ先に未散が綾香に接触したかもしれませんし、作品的にも寧ろその方が色々と安心できるかなって気もしますが。

 

 

  ★    ★   ★

 

 

【未散パラドクスその3 未散や綾香の同一性の仮説 】

 

 先ほどの【未散パラドクスその1 必ず死ぬ未散と未来から来た未散の二律背反問題】の最後に挙げていた構造で気付いたかもしれませんが、この中では未散は実は一人しか存在していません。それに【マルチバットエンド】という仮説での未散も分岐している限りは別々ですが、総当たりで模索しては引き返す感じに最終的に全ての分岐点が一本の正解ルートに回帰収束していくと考えれば、同一と見る事ができるかもしれません。

 

 ちなみに綾香は、物語の中では主人公の一人ですし、十月五日を繰り返した全てを経験して記憶していた事から同一性を持っているともいえます。
 ただ、未散が十月六日以降の未来の綾香について語った事によって、十月五日の時点での綾香にとってその未散の知る未来の綾香は可能性のひとつという存在となります。もしかすると今の綾香はその綾香と同一とは言い切れない存在となるかもしれないのです。

 

 そのようになってくると、同一性をもった未散にとって、物語中の主人公である綾香と、タイムリープする前に一緒だった未来の綾香は同一なのでしょうか? というパラドクスが生まれてしまいます。

 

 

  ★    ★   ★

 

 

【未散パラドクスその4 綾香の記憶しない繰り返す周回は存在するのかという疑問】

 

★AからFまで順番に繰り返す同じ日
★綾香はAからFまで記憶する。
★未散はBの時はAの断片を、Eの時はAからDまでの断片を無意識の下に記憶している。
 ↓ ↓ ↓
 綾香はCが採用されてその日から翌日に進む。
 ↓ ↓ ↓
★その綾香はAからEまでの記憶を引き継いでいる。
★採用されたCでの未散は、Cの時点での思い出せる程度のAからBまでの記憶を継承するが、DからFまでの記憶はCまでには体験していない為に継承しない。

 

★仮にFの次にGもあった場合、綾香はFの時点でAからFの記憶を抱えながらCを採用して翌日に進んだとすれば、綾香はGでの出来事を知らないままCから先に進んでいく。

 

 

 作中では綾香が繰り返した同じ日には順番がありました。綾香はそれら全てを記憶した上でたったひとつの一日だけが採用されて進んでいました。けれども、採用されたのが綾香が繰り返してきた途中の回数目だった場合、未散はそこまでの繰り返した日々までしか記憶を持たないのでは?
 そんな未散に付いての疑問の延長が「綾香の記憶しない繰り返す周回は存在するのか」という綾香についての疑問です。それはしかし、綾香の「完全記憶能力」からすれば本来あり得ない可能性なのですけど……、「十月五日‘A」、優花が百万回も繰り返す綾香に根負けして未散を運命を改竄する魔法使いにしてしまった後に発生する十月五日は、優花が関わらなければ存在し得ない可能性だったので、「綾香の記憶しない繰り返す周回は存在するのか」を完全に否定する事が出来ないかもしれません。

 

 

【未散パラドクスその5 綾香が不採用にした一日の先にいる未散についての考察】

 

 綾香が繰り返した一日について、不採用とした一日はその綾香がそれ以上観測しないのだから存在しないこととなってます。また同じように綾香がその日のその回に死ぬとその回も綾香が観測できない以上存在しない事となってます。

 

「綾ちゃんが死んだ一日は採用されない。その理由は至極単純で、綾ちゃんが死ぬ未来を綾ちゃんは見ることができない」p287

 

 それでは不採用となった世界で存在した人々は、そこで生きていた未散は、同様に存在しない事となってしまうのでしょうか?

 

“わたしがいない明日だってあるだろう。けど、わたしの目の届かないところにしかない。わたしが採用できる明日は、わたしが生きて見て思うことができる明日だけ」p288

 

 第一巻作中では、上記の綾香による思考の中で推測されているだけで、主人公である綾香が存在しない場面自体が存在していない事から、不採用となったその日のその先についてのこの考察には、作品としての答えは存在していないと思われます。なので、ここからの事もあくまでも仮説です。

 

 まずは、綾香の世界での綾香以外の人たちの存在についてです。

 

 綾香は一日という世界の中で自分以外の人々を別に仕向けるように操っていたりはしません。出来る事は前回のその日よりもより良い選択をして最善の一日を求める程度で、周りへの影響もその綾香の振る舞いによる結果に留まります。
 更にその日に最善を選んだとしても、綾香が嘆くように採用を願った一日ほど不採用となる事があって綾香の都合通りとはなりません。
 それに綾香以外の人々は皆、綾香が繰り返しているその日一日ごとに違った行動を取っているのです。
 その前提に立つと、綾香以外の人々は綾香に関わらない限りその影響を受けないし、影響が及んだとしてもその上で自律していると言えます。もちろん未散もです。

 

 それでは不採用となった綾香のその日に存在した人々や未散は、その翌日においてどんな存在となるのか?

 

 この説明自体は極めて難しいです。綾香が観測できない以上そこから先は存在しないと言えば簡単だけど、どのように存在を失うのか。突然滅亡するのか、地球ごと消えてしまうのか、
それとも宇宙自体が消失するのか。そのような時空の大虐殺はとても考えられません。

 

 そこで考えられるのは、綾香の世界が途切れても、未散や人それぞれにも個の世界があって、それぞれが繋がりながら世界が存続するという構造です。
 例えば歴史とは膨大な記録と記憶の連なりのようなものですが、それを体験して遺産としてきたのは過去の個々の人々です。そして個々の人々が存在しなくなっても歴史という記憶の総体・世界の継続を第三者が観察する事で、更には今ある個々の人々の体験や遺産を見る事で、個々の一人一人が過去があり今に至ると確認できます。

 

 綾香が未散と一緒にいる事で得た体験を記憶したように、未散もまた、綾香との過ごした日々を記憶している主体の一人なのではないでしょうか? だから未散もまた未散の世界を観測していると。
 未散が死んでも、綾香が死ぬまでは未散の死後の世界が続いたように、綾香が続いて死んだとしても例えば優花のいる世界が続くように。そんな個々の世界の継続した流れが世界の総体なのでは。
 更にその世界の総体は常に細かく分岐分裂し続けていると考えれば、綾香にとって繰り返した日々と不採用となった日々の存在も分岐した先で継続していると説明できそうです。綾香が不採用としたその日が消えてしまわないのなら、そこに残る未散によって観測され続ける形で存続します。ただ、不採用となったその日のその後について、それを放棄した綾香が観測していないだけです。

 

 以上のある意味訳わからん推論で導き出せるとすれば、全てを知り尽くして記憶する「忘れえぬ魔女」の綾香とは、自分が観測する範囲で記憶した限りという極めて限定的な存在とも言えます。

 

 もちろん、不採用となった場合のその先にも綾香自身が存在し続けるのなら、それを選択して、それまでの記憶を持った綾香がそれからの世界を未散と一緒に過ごしながら観測し続ける筈です。
 例えば、高確率の優花の死を回避しないまま続いた世界とかです。それは十月五日の悲劇を回避出来ない世界、未散を失う世界ですが……。
 つまり、綾香自身もマルチバットエンドを繰り返していたかもしれない、とも言えます。

 

 個々の世界が分岐する事でそれに刺激され影響されて別の個々も分岐して、世界の総体自体も分岐する。そして今出来るのは今いる世界の観測だけであり、分岐してしまった世界の総体はパラレルワールドという可能性のあった存在にしかならない。

 

 

 ちなみに第二巻で未散は、綾香が別の綾香によって連れ去られてしまった。
「たぶんだけど、アレは他の時間軸の綾香だと思う」二巻p211
だからタイムリープして四月に遡ったと綾香に語っていました。それだけでなく、何度もやり直していたことも。それを踏まえると、第二巻を交えた考察は更に複雑なものとなりそうです……。

 

 

  ★    ★   ★

 

 

 とりあえず……これ以上の考察は時間的な余裕がないので難しいかな。十月五日を越えた第二巻のストーリーでは、またいくつもの新たな謎もありますし、考察を手助けしそうな情報もあったりしますが……綾香を連れ去った綾香って一体……。続く第三巻がいつ刊行されるのか分からないですが、その中で真相が明かされていったら良いなって思います。

 

 それにしても、この『忘れえぬ魔女の物語』にはどれだけの時間や存在とかのパラドクスが組み込まれているんでしょうか。色々と綾香と未散の運命を巡って底なし沼のように想像してしまえるところにも、作品の魅力があるのかもしれません。

 

(2021年9月21日初版)
(2021年9月25日 パラドクス3~5の追記、色々と大幅な加筆修正)

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